それからそれから

それからそれから

 「うわい又三郎、風などあ世界じゅうになくてもいいな、うわい。」

 すると又三郎は少しおもしろくなったようでまたくつくつ笑いだしてたずねました。

 「風が世界じゅうになくってもいいってどういうんだい。いいと箇条をたてていってごらん。そら。」又三郎は先生みたいな顔つきをして指を一本だしました。

 耕助は試験のようだし、つまらないことになったと思ってたいへんくやしかったのですが、しかたなくしばらく考えてから言いました。

 「汝(うな)など悪戯(わるさ)ばりさな、傘ぶっこわしたり。」

 「それからそれから。」三郎はおもしろそうに一足進んで言いました。

 「それがら木折ったり転覆したりさな。」

 「それから、それからどうだい。」

 「家もぶっこわさな。」

 「それから。それから、あとはどうだい。」

 「あかしも消さな。」

 「それからあとは? それからあとは? どうだい。」

 「シャップもとばさな。」

 「それから? それからあとは? あとはどうだい。」

 「笠もとばさな。」

 「それからそれから。」

 「それがら、ラ、ラ、電信ばしらも倒さな。」

 「それから? それから? それから?」

 「それがら屋根もとばさな。」

 「アアハハハ、屋根は家のうちだい。どうだいまだあるかい。それから、それから?」

 「それだがら、ララ、それだからランプも消さな。」

 「アアハハハハ、ランプはあかしのうちだい。けれどそれだけかい。え、おい。それから? それからそれから。」

 耕助はつまってしまいました。たいていもう言ってしまったのですから、いくら考えてももうできませんでした。

 三郎はいよいよおもしろそうに指を一本立てながら、

 「それから? それから? ええ? それから?」と言うのでした。

 耕助は顔を赤くしてしばらく考えてからやっと答えました。

 「風車もぶっこわさな。」

 すると三郎はこんどこそはまるで飛び上がって笑ってしまいました。みんなも笑いました。笑って笑って笑いました。

 三郎はやっと笑うのをやめて言いました。

 「そらごらん、とうとう風車などを言っちゃったろう。風車なら風を悪く思っちゃいないんだよ。もちろん時々こわすこともあるけれども回してやる時のほうがずっと多いんだ。風車ならちっとも風を悪く思っていないんだ。それに第一おまえのさっきからの数えようはあんまりおかしいや。ララ、ララ、ばかり言ったんだろう。おしまいにとうとう風車なんか数えちゃった。ああおかしい。」

 三郎はまた涙の出るほど笑いました。

宮澤賢治「風の又三郎」『風の又三郎』岩波文庫