べらぼうべろべろベルゼブブ

べらぼうべろべろベルゼブブ

 アヴァロンはぐいと唇を歪めた。「おいおい、それはないぞ、トム。べらぼうべろべろベルゼブブだ、それは。せっかくきょうは古き佳き時代の……」

 トランブルは肩をすくめてぷいと横を向いた。ロジャー・ホルステッドが例の腰のない声でアヴァロンに尋ねた。「何だね、そのべらぼう云々というのは? どこで覚えてきたんだ?」

 アヴァロンは満悦の体だった。「いや、なあにね、マニーがエリザベス朝のイギリスを舞台に冒険小説を書いているのだよ。エリザベス1世だよ、もちろん。で、それが……」

 自分の名を耳にして、ルービンは魔法の呪文に吸い寄せられるようにやって来た。「海洋冒険小説だよ」

 ホルステッドは言った。「もうミステリは種が尽きたかね?」

「どういたしまして。ミステリ仕立てでもあるな、これが」ルービンは分厚い眼鏡の奥でぎろりと眼を剥いた。「これだから素人は度し難い。どんな材料だって、書き方次第でミステリになるくらいのこともわかってないのか、きみは」

「それはさておき」アヴァロンが言った。「マニーはその中のある人物にしきりに悪態を吐かせているのだよ。それも、必ず同じ音ではじまる言葉を重ねたいわゆる頭韻法というやつでね。しかも、同じ悪態は二度と使わない。それで、マニーとしてはもっともっと強烈な悪態をたくさん編み出さなくてはならないわけだよ。べらぼうべろべろベルゼブブというのはなかなか悪くないと思うよ」

「マモンも真っ青まる儲け、なんていうのもね」

 トランブルはかっとした。「ほうら見ろ。わたしが問題を提示して、ヘンリーの輝ける頭脳を借りて有効に時間を過ごさなければ、きみらはたちまち愚にも吐かない言葉の遊びで一晩を台なしにしてしまうんだ。ツタンカーメンの面に唾だ、まったく」

「君もだいぶ毒されてるな」ルービンはにったり厭味に笑った。

アイザック・アシモフ 池央耿訳『黒後家蜘蛛の会 4』創元推理文庫

 萌えるのは、悪態の吐き方に悪態を吐くトランブルがちゃんとルールに乗っかってあげているところ。