カルタゴ

カルタゴ

38 カルタゴは滅びるべし ―― 動形容詞


Carthago delenda est.

カルタゴは滅びなければならぬ。

(すなわち)

カルタゴを滅ぼさねばならぬ。

         ―― カトーの主張

逸身喜一郎『ラテン語のはなし』大修館書店

 プルタルコスの『対比列伝』(『英雄伝』)の「大カトー」の章に(27節)、カトーはなにごとによらずすべての問題に関して意見を述べるにあたって、演説の最後を「カルタゴは滅びなければならぬ」とつけ加え締めくくった、と記されている。「カルタゴは滅びなければならぬ」といえば、主語はカルタゴであって、まるでカルタゴだけの問題のように響くが、実際は「滅ぼす」主体がある。ローマである。「われわれローマはカルタゴを滅ぼさなければならない」とはいわない。そこがみそである。

 カルタゴはローマの宿敵であった。ハンニバルが象を率いてアルプスを越えイタリアに侵入した際には、カンナエというところでローマは大敗を喫した。このときの戦争を「第二次ポエニ戦争」と日本の教科書では呼ぶ。カトーがカルタゴ殲滅論をぶって、事実、カルタゴが地上から抹殺されてしまうのは、カンナエの戦いから数えておよそ1世紀ちかくたった「第三次ポエニ戦争」のあとのことである。

 ちなみに、「ポエニ戦争」の「ポエニ」とはラテン語の Poeni であって、「フェニキア人(複数)」を指している。カルタゴはフェニキアの植民都市であった。

 さて冒頭の文章である。この delenda は前の課でとりあげた動名詞と似た姿をしているが、そうではない。動名詞 delendum <滅ぼすこと>の意味は能動である。ところがこの文章の delenda は<滅ぼされるべき>と受動である。そこで後者を「動形容詞」と呼ぶ。

 動形容詞という名称は、ぼつぼつラテン語文法で定着してきたところであって、まだこなれた訳語ではない。では従来なんと呼んだかといえば、ラテン語を使って gerundivum あるいはそれの英語形 gerundive と呼んだ。ちなみに動名詞のほうはラテン語で gerundium 英語で gerund である。名称が似通っているがごとく形態も似ているが、しかし意味は違う。

逸身喜一郎『ラテン語のはなし』大修館書店

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