ギリシア人のさっぱり

ギリシア人のさっぱり

 ギリシア人は、体操の前とあとにオリーヴ油を皮膚塗料としてつかう。運動後、汗を拭いて、油をぬってはじめて「さっぱり」するのである。

1 地中海地域
オリーヴの林

日本人のように淡泊な食事になれたものにとって、地中海旅行の最大の悩みはオリーヴ油でぎとぎとした料理である。しかし地中海地域の人々にとってはオリーヴこそ天与のありがたい樹木であった。それは何百年の樹齢をたもつ強い樹であり晩秋に熟したその実からしぼられる油は、もっとも安価で栄養価に富む脂肪分の供給源をなしていた。プラトンの哲学もプラクシテレスの彫刻も、原動力はあの油かと思うとすこしいやな気がするのだが、オリーヴ油がギリシアの先住民の時代から食生活の必需品だったことは、今日考古学的に証明されている。


 それは、ひとくちに牧場の世界だといわれるヨーロッパのなかでも地中海地域の牧畜の特別な性格と関係があるのだが、その点はあとで述べることにして、オリーヴ油は食用のほかに皮膚塗料として古代人には不可欠であった。からだに油をぬって体育競技をし、すんだらひと風呂あびてあらためて油をぬってはじめてさっぱりする――実はギリシア人の表現では日本語の「さっぱり」にあたるのは「テカテカ」という言葉なのだが――この習俗はわれわれにはどうもピンとこないが、今日の西欧人にもよくわからないらしい。それは原始からすくすくと育ってきた趣きのあるギリシア人の一面のあらわれなのだろうか、あるいはこれまた地中海の空気の乾燥となにかつながりがあるのであろうか。


 オリーヴ油はこのほかに灯火用にもつかわれたが、大事なのは食用油としてのオリーヴと牧畜の関係であり、ここに地中海農業の基本的特色がある。

村川堅太郎 他『ギリシア・ローマの盛衰』講談社学術文庫