スター・システム

スター・システム

第七章 文章技巧


 もし外貌が大切ならば映画にかなうものはありますまい。映画は人の顔、服装すべてを目の前に提示します。そうしてその人物に対する好き嫌いは配役によって微妙に差別され、人の嫌うような顔は悪役、人の好くような顔はよい役にあてはめられます。だが映画を見るとき、われわれは同時に、ある一定のイメージを押しつけられているという感じを否むことはできません。想像力は画面から命令され強制されて、一定の型にはめられてしまい、例えば痩せ形の女を好きな男が、豊満な美人の女主人公の映画を見てもなんらの実感が湧きません。そのためには映画はよくできていて、肥った女優や、痩せた女優や、さまざまな女優の手持ちをもち、それぞれの出演映画をあてがい、観客は映画そのものよりも俳優によって自分の好みを選択して映画館へ行きます。かくして映画のスター・システムが生れるのでありますが、映画のスター・システムとは映画が観客の想像力を殺すことの必然的結果であり、演劇がなお想像力の余地を多く残している点で、それほどスター・システムを要求しないのとちょうど逆の事情であります。しかし歌舞伎のスター・システムは別の伝統からでたもので、これを混同することはできません。

三島由紀夫『文章読本』中公文庫

文章読本 (中公文庫)

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