ズィルヴァニア

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ウォーハンマーRPG 基本ルールブック

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第7章:魔法

最悪の迷い道

 ギルバート卿は疲れきった馬を急きたてて、物寂しい村へ入っていった。道路はひどいありさまで、本当にナルンまで通じているのかという疑念を振り払うのにえらく難儀した。もっとも、ハーフリングの渡し守は、この道で間違いないと請合うように言ったのだが。まったく、あの役立たずの従者がウィッセンブルグで殺されてさえいなかったら、へらへら顔のハーフリングごときに自ら声をかける必要もなかったものを。地図を読んで経路を探すなどは、ブレトニア騎士のすることではない!

 やがてギルバート卿は、宿屋とおぼしき建物の前にきた。扉には紋章が下手くそに描かれている。百姓につきものの迷信だとギルバート卿は思った。ガントレットをはめた拳で扉を叩く。応答がない。そこでなおも叩きつづけると、何者かの声が、「うせろ!」と怒鳴った。

 「ただちに扉をあけることを命ずる」ブレトニア騎士は言った。「私はサー・ギルバート・ド・アルノー、敬虔至上にあらせられるルーアン・レオンクール王の遍歴の騎士にて、今宵の宿と食事を所望するものである。さあ、あけぬか!」

 「てめえが血まみれだろうが知るもんか、神がかりの大先生よ」何者かの声が言った。「入れてやらねえよ」ギルバートには他の何人かの声も聞こえた。あざ笑っているのか?

 「下衆な百姓どもよ、聞くがよい。ただちにこの扉を開けぬとあれば、私がナルンへと戻った暁には、エマニュエル伯爵夫人の命でこの村は、確実に地図上から消滅することになるぞ!」

 もはや疑いもない。室内の連中は笑いどよめいている。それが静まってから、先ほどの声が言った。「構わねえから伯爵夫人とやらに言いつけなよ。ここじゃそんなもん屁でもねえぞ。ここをどこだと思ってんだ? ズィルヴァニアだぞ、従者さんよ」

 「私は従者ではない!」ギルバートは怒り心頭に叫んだ。この百姓どもには、貴人を敬うすべを教え込まねばなるまい。そう決意して、剣の柄頭に手をおろす。するとそのとき、夜の静寂が不意に破られた。道のむこうから、足を踏みならす音が聞こえてくる。規則正しい、まるで軍隊が行進するような足音だ。ギルバートの心に希望が灯った。帝国軍の一部隊といったところだろう。やはり彼らは頼りになる。こうして遍歴の騎士を、温かく迎えてくれるのだから。

 ギルバート卿は兵士たちを出迎えようと村の中心まで歩いていった。やがて彼の目に、ぎっしり並んで密集行進をする兵士たちの一隊が映った。彼らは武器を肩にあて、一糸乱れぬ隊列で近づいてくる。規律の高さにいたく感嘆したギルバート卿は、そのむねを伝えようと口にのぼせた言葉を、凍りつかせた。月光のなかでギルバート卿が目にしたのは、帝国軍の兵士ではなく、墓場の奥からやってきたクリーチャーだった。頭蓋骨が露出した顔からは肉が垂れさがり、空ろな眼窩では赤い球体が光を放っていた。百姓どもの言葉が胸によみがえってくる。「ここをどこだと思ってんだ? ズィルヴァニアだぞ、従者さんよ」

 サー・ギルバート・ド・アルノー、ブレトニアの遍歴の騎士は剣を引き抜くと、命をかけて戦う覚悟を決めた。宿屋のなかでは、もはや誰一人笑ってはいなかった。

Chris Pramas 待兼音二郎『ウォーハンマーRPG 基本ルールブック』ホビージャパン