ピース

ピース

スローターハウス5

または 

子供十字軍

死と義務的ダンス

カート・ヴォネガット・ジュニア


ドイツ系アメリカ人四世であり

いまケープ・コッドにおいて

(タバコの吸いすぎを気にしつつも)

安逸な生活をいとなむこの者

遠いむかし

武装を解かれたアメリカ軍歩兵隊斥候

すなわち捕虜として

ドイツ国はドレスデン市

「エルベ河畔のフローレンス」の

焼夷弾爆撃を体験し

生きながらえて、この物語をかたる。

これは

空飛ぶ円盤の故郷

トラルファマドール星に伝わる

電報文的分裂症的

物語形式を模して綴られた

小説である。

ピース

カート・ヴォネガット・ジュニア 伊藤典夫訳『スローターハウス5』ハヤカワ文庫


 わたしはカイヤホーガの虐殺のことを思った。これはアメリカ労働史上で最も血なまぐさい、罷業者と雇用主との衝突事件である。その事件は、千八百九十四年のクリスマスの朝、カイヤホーガ橋梁鉄工所の正門前で起こった。わたしが生まれるずっと前のことだ。それが起こったとき、わたしの両親はまだ帝政ロシアに住む子供だった。しかし、わたしをハーヴァードにやってくれた男、アレグザンダー・ハミルトン・マッコーンは、工場の時計台の上から、彼の父親と兄のジョンといっしょに、それをながめていた。そのときから、彼は軽いどもりではなくなり、べつになんの不安のないときでも、まるでろれつの回らない言語障害者になったのだった。

 ついでながら、カイヤホーガ橋梁鉄工所は、労働史上を別にして、ずいぶん前からその名を消している。第二次大戦後まもなくヤングタウン製鋼に吸収され、そのヤングタウン製鋼も、いまではRAMJACコーポレーションの一部にすぎない。

 ピース

カート・ヴォネガット『ジェイルバード』ハヤカワ文庫

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