フォーマ

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本書には真実はいっさいない。

「<フォーマ*>を生きるよるべとしなさい。それはあなたを、

勇敢で、親切で、健康で、幸福な人間にする」

     ――『ボコノンの書』第一の書第五節



            *無害な非真実

カート・ヴォネガット・ジュニア 伊藤典夫訳『猫のゆりかご』ハヤカワ文庫

 いくつかわかったこともあるが、ほとんど役に立たなかった。一例が、ボコノン教の宇宙論である。それによれば、<ボラシシ>、つまり太陽が、<パブ>、つまり月を両の腕に抱き、燃えさかる子を<パブ>が産むようにと望んだことになっていた。

 だが<パブ>が産んだのは、冷えた、燃えない子供たちだった。<ボラシシ>は子供たちを嫌って放り出した。これが惑星で、彼らは安全な距離をおいておそろしい父親の周囲をまわっている。

 やがて<パブ>は捨てられ、彼女のいちばん愛する息子と暮らすようになった。それが地球である。地球を<パブ>が愛したのは、その上に人びとが住んでいるからだった。そして人びとも彼女を見あげ、彼女を愛し、その境遇に同情した。

 さて、ボコノンは、彼自身がつくったこの宇宙論についてどんな意見を持っているのか?

「<フォーマ>だ! うそっぱちだ!」ボコノンは書いている。「<フォーマ>のかたまりだ!」

カート・ヴォネガット・ジュニア 伊藤典夫訳『猫のゆりかご』ハヤカワ文庫

 わたしは『ボコノンの書』を開いた。内容をまだそれほど詳しく知らないので、宗教的な安らぎが得られるかもしれないと思ったのだ。『第一の書』の扉にある警告を、わたしは急いで読みとばした――


 馬鹿なことはやめろ! すぐこの本を閉じるのだ! <フォーマ>しか書いてないんだぞ!


フォーマ>とは、むろん、嘘のことである。

 つぎに、私はこれを読んだ――


 はじめ神は大地を創造された。そして、広大無辺な孤独のなかから地上を見おろされた。

 そして神は言われた。「泥から生き物を作りだそう。わたしのしたことが、泥に見えるように」神は、動きまわる生き物を種類にしたがって創造された。その一つが、人だった。泥から生まれたもののなかで、人だけが話すことができた。泥から生まれた人が、起きあがり、あたりを見まわし、話しはじめると、神はそのそばに行かれた。人は目をしばたたいた。

「いったい、これには何の目的があるのですか?」と人はていねいにたずねた。

「あらゆるものに目的がなければいけないのか?」と神はきかれた。

「もちろん」と人は言った。

「では、これの目的を考え出すことをあなたにまかせよう」と神は言われた。そして行ってしまわれた。


 たわごとだ、とわたしは思った。

「もちろん、たわごとだ」とボコノンは言っている。

カート・ヴォネガット・ジュニア 伊藤典夫訳『猫のゆりかご』ハヤカワ文庫
猫のゆりかご (ハヤカワ文庫 SF 353)

猫のゆりかご (ハヤカワ文庫 SF 353)

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