フラットランド

フラットランド

フラットランド

 アランシア人が、想像もできないほど桁はずれな何かを表現しようと思った場合、たんに「フラットランドくらいでっかい」と言う。ゆるやかに起伏する平原が、もともとのアランシア地方よりもはるかに広大な地域に広がり、ここを旅するには何週間もの騎乗を要する。やがて、それは大陸の反対側にある真珠海の海岸へと、しだいに低く傾斜していく。異教平原と比較すると人口は稀薄だが、それでも、人間やそのほかの種族がそこで暮らしている。遊牧民の小部族がいくつも荒れ地をさ迷い、数日のあいだ、あるところに村を設置しては、またべつのところへ移っていく。彼らは、つり上がった目に真黒な髪をしており、背は低く、土色の肌をしている。野生の馬がフラットランドを駆け、さらには、より凶悪な生き物もいる。遊牧民は疾走する馬上から弓や投げ縄を使う達人であり、これらの生き物を狩りたてるのだ。彼らは勇猛な戦士であるゆえ、ひとつの戦闘集団として結集することがあるならば、このアランシアに住む者たちにとって大きな脅威となるだろう。しかし、彼らはそれぞれの部族に忠誠を尽くす誇り高い人々なので、他の種族にたいして団結することはなかなか困難である。

 ゼンギスからの隊商が、フラットランドをときおり横切っていく。比較的安全な平原の北の縁を通って、サルダスの町へ、さらに、そこから氷に閉ざされたフロストホルムへ、そして、ファングセインやヴィンハイムの町へと、その長い旅をつづけるのだ。サルダスは、二つの切り立った山頂の間の、危なっかしく溜まった湖上に、支柱で支えられ建てられた驚くべき都市だ。そこには、荒々しい人間たちとドワーフが住んでいる。数世紀まえにドワーフたちは、不毛な地域で多くの資源を開発するあいだ、自分たちのすみかとして、この都市を建設したのだ。サルダスの北の氷血山脈(ドワーフたちにはカラクール、つまり”神々の障壁”として知られる)の裾野では、金の鉱脈が地中深く掘り抜かれ、また、わな師が贅沢な毛皮をとるために、熊や雪狐、さらに、もっと珍しい生き物を捕らえ、木こりは生い茂った森から材木を切り出す。そこは、多くの犠牲を強いる厳しい土地だが、生き残ったものにとって、その報酬も大いなるものなのだ。

M.ガスコイン編安田均訳『タイタン』社会思想社