マスグレーヴ家の儀式

マスグレーヴ家の儀式

『僕はぜひその書付を見なければなりません。執事が自分の地位を棒に振ってまで見たがったというその書付をね』

『どうも少しばかげたものなんですがね、自家(うち)の儀式文というやつは。古雅なところが値うちとでもいうんですかね。幸いここにその問答文の写しを持っていますから、見たければ読んでみてください』

 そういってマスグレーヴが渡してくれたのがこの紙なんだ。つまり代々のマスグレーヴが、家憲として、丁年になるとき行わなければならないという、不思議な問答だ。ひとつ原文のとおり、この問答文を読んで聞かそう。

そは何人(なんぴと)のものたりしや?

 ゆきたる人のものなり。

そは何人のものたるべきや?

 来るべき人のものなり。

何月なりしや?

 最初より第六番目なり。

陽はいずこにありしや?

 樫の木の上に。

いかに歩みしや?

 北へ十歩、而して十歩、

 東へ五歩、而して五歩、

 南へ二歩、而して二歩、

 西へ一歩、而して一歩、

 かくして下に。

いかにわれら守るべきや?

 われらの持つすべてをかけて。

いかなればわれら守るべきや?

 信と義とのゆえに。

『原本にも日付はありませんが、綴字の古風さからみて、十七世紀半ばごろのものです』マスグレーヴが説明した。

コナン・ドイル 延原謙訳『シャーロック・ホームズの思い出』新潮文庫
シャーロック・ホームズの思い出 (新潮文庫)

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