メントル・テスト

メントル・テスト

口頭試問

家からおやしきへ

正三君はこの安斉先生に主事室へ呼びつけられてお学友の心得を申し渡された。それは生まれてはじめてよそに泊まって心細い一夜をすごした翌朝だった。漢文の口頭試験のようなものだったが、先生はメントル・テストだとおっしゃった。正三君はメンタルとおぼえていたけれど、漢学の方ではメントルかしらと考えた。

「内藤君、昨日はおいでになったばかりでまだ落ちつかないようだったから控えていましたが、もういいでしょう。今日はメントル・テストの流儀にしたがってお学友の心得をお話しいたしましょう。」

佐々木邦『苦心の学友』講談社 少年倶楽部文庫
家からおやしきへ

「ときに内藤君、きみは、四方に使いして君命をはずかしめずということばがおわかりですか?」

「さあ」

「考えてごらんなさい。メントル・テストです。使于四方、不辱君命」

 と安斉先生はそのとおり奉書紙に書いてみせた。

佐々木邦『苦心の学友』講談社 少年倶楽部文庫
家からおやしきへ

「いや、漢学の試験ではありません。メントル・テストです。これが大切ですぞ、ことにお学友は」

佐々木邦『苦心の学友』講談社 少年倶楽部文庫
家からおやしきへ

 正三君が廊下へ出ると、照彦様が待っていてさしまねいた。

「内藤君、きみは安斉先生のメントル・テストを受けたね?」

「はあ。いろいろと教えていただきました」

「あれはやっぱりメントルだとさ。僕がメンタルだと教えて上げたら、先生怒って、ドクトルということはあるがドクタルということはあるいまうまいがなとおっしゃった。お兄様たちも大笑いさ。しかし漢学の方は大先生だ。日本一だろう」

「そのようでございますな」

佐々木邦『苦心の学友』講談社 少年倶楽部文庫
家来の一日

「級長の松村君は陸軍少将の息子です。この三人なら学問も品行も申し分ありません。照彦様はお仲よしですから、時々おやしきへお招きしたいとおっしゃるんです」

「とにかく、私が会ってみましょう。ご身分をうかがって、メントル・テストにかけます。その上のことにしてください」

 と安斉先生はナカナカ用心深い。

佐々木邦『苦心の学友』講談社 少年倶楽部文庫