世のならひ

世のならひ

 新仏教の嚆矢とも言うべき浄土宗を開いた法然は、一百四十五箇条問答(大橋俊雄編『法然全集』巻三)のなかで、肉食に関して次のように答えている。

 一、さけのむは、つみにて候か。

 答、ま事にはのむべくもなけれども、この世のならひ

 一、魚・鳥・鹿は、かはり候か。

 答、たゞおなじ。

 魚や鳥や鹿を食するものは変り者か、という問いに対して、まったく変りはないことだと答えている。酒を飲むことと同様に、本当は食さない方が良いが、この世では已むを得ないことだ、という認識が法然にあったものと思われる。また「にら・き(葱)・ひる(蒜)・しゝ(宍)」を食べても、念仏には差し支えないとしたり、「しゝ(宍)のひ(干)たるによりて、いみ(忌)ふかしといふ事はひが事」として、干肉の穢れが深いというのは誤りである、と断じている。

原田信男『歴史のなかの米と肉』平凡社ライブラリ