十月

十月

幽蘭居士東京夢華録 巻九

十月一日

 十月一日には、宰相以下の百官に冬着・錦の襖(はおり)を賜る*1

 三日――今は五日――には、土民はみな都を出て墓参りをする。禁中では御使いを道者院*2に出され、また西京(洛陽)にも御派遣になって御陵に参拝させられる*3。皇族方が御使いを出されることも、寒食節の際と同様である。係の役所からは煖炉用の炭を参らせる*4。民間ではみな酒宴を設けて「こたつびらき」をやる*5

孟元老『東京夢華録』東洋文庫 平凡社

 十月*6


 十月は冬の最初の月、小春の季節にあたる。天気は穏やかで気持ちよく、花たちの中でも一つ二つと咲くものがあり、初春の気分に似ているため、小春*7と名づけられる。この月の雨は液雨*8という。昆虫たちは、この水を飲んで土の中にかくれる。来年の春、驚蟄の時候、春雷がはじめて響く頃、虫たちはちょうど冬眠からさめる。

 一日には、朝廷から宰執以下に錦衣を下賜される。これを受衣という。いただく錦の色は品位によって違う*9。百官たちは参内してご挨拶を申しあげ、錦の襖を三日間*10着用する。士人庶民ともども、十月の節季ということで郊外に出て墓地を清掃し、祖先をおまつりする。宮中からは、皇族たちが車馬でさしつかわされ、攅宮に赴いて参拝の礼が行われる(『歳事広記』巻三七の「陵寝に朝し、墓塋を拝す」などに関係する記事がある。わが国の彼岸会と同様に、中国でも清明と十月一日に墓参が行われる。)。担当の役所からは煖房用の薪炭が上進され、太廟ではお供えを新しくして、冬の朔日をご報告する。大きな寺院では、どこでも炉開きをして、檀家のために仏事をとり行う*11

 新しく煖炉の閤をしつらえ、刺繍した幕を深くおろし、老いも稺きもつどい集まって、少量の酒をくんで低い声で唱をくちずさみ、炉開きの節序にあい応じる*12

呉自牧『夢梁録』東洋文庫 平凡社

*1:この月から冬に入るので、十月一日に在京の百官や武官に冬着を支給することは、給与の一環として法的に定められていることであった。

*2:巻六(二二七ページ)、巻八(二八五ページ)などに既出

*3:宋朝歴代の陵は西京の東南の永安県(現在の鞏県)にあった。

*4:「歳時雑記」によると、宮中では火禁がはなはだ厳しく、十月一日から初めて火の使用が許される定めであったという(『歳時広記』巻三七)。

*5:このことは金盈之の『酔翁談録』巻四にも見える。いわば「いのこ祭」に当る。なお『鶏肋編』巻中によれば、「汴都数百万の家は、ことごとく石炭に仰ぎ、一家として薪を燃やすものなし」とあるから、日常の燃料はすべて石炭を用いていたのである。『曲洧旧聞』巻四でも、「いま(北宋の末)西北にては処々にこれを用い、その利をなすこと甚だ博し」と述べている。蘇東坡にも「石炭行」という詩があって、鉄の精煉に最もいい燃料であると讃えている。宮崎市定「宋代における石炭と鉄」(『全集』第九巻)、およびRobert Hartwell, A Revolution in the Chinese Iron and Coal Industries during the Northen Sung.(Journal of Asian Studies XXI-2,1962)参照。

*6:『東』巻九の「十月一日」と内容的に全く同じだが、文章はふくらまされている。

*7:『荊楚歳時記』では、「十月、天気和暖にして春に似る。故に小春という」といい、『歳時事要』では、「十月、天時和暖にして春に似る。花木は重ねて花さく。故に小春という」と似通った説明をする。

*8:前注の『荊楚歳時記』ではつづいて、「この月内、一たび雨ふればこれを液雨と謂う。百虫これを飲みて蔵蟄す。俗に呼びて薬水と為す」という。『本草』の雨水には、時珍曰くとして。「立冬後の十日、入液と為す。小雪に至らば出液と為す。雨を得ればこれを液雨といい、また薬雨という」と、少し異なった説明が見える。

*9:宋代の官員の公服の色は、三品以上が紫、五品以上が朱、七品以上緑、九品以上は青ときめられていた(『宋史』巻一五三、輿服志)

*10:『東』の訳注二九五頁では三日を下につけ、墓参りが十月三日のように解釈されているがそうではなかろう。本条はすべて十月一日の行事を記しており、その点『歳事広記』の記述も同じである。『歳事広記』の引用する『歳時雑記』も、「並びに錦袍を賜わる。皆これを服し、以って謝すこと三日」とあって、いただいた錦襖を三日間はつけていると読むのが正しいと思われる。

*11:『歳事広記』巻三七にひく『歳時雑記』、十月朔、在京の僧寺、薪炭を以って、檀施より出さしむ。是日必ず炉を開き、堂に上り、斎会を作す」。

*12:前注と同じ書物に、「京人、十月の朔、酒を沃ぎ及び肉を炉中に炙り、囲坐飲啗す。これを煖炉と謂う」とみえる。刺繍した幕を深くおろすとは、現在でも普通にみられる、厚い布帛のおおいを戸口に垂らして防寒・防風とする意。

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