呉智英式占い

呉智英式占い

占いは差別の代わり

夫子曰 そのことをわかりやすく説明するために、ちょっと話を占いに戻す。なぜ血液型や星座の占いが流行るのか? 今は自己紹介欄にも、血液型や自分の星座を必ず書くらしいが、それはいったい何なのか?

 したり顔で、現代科学への不信だなどと言う人がいるけれども、実はそんなことではない。もっと単純なことだ。ただ、それは、さっき言ったような知的世界に入ることを否定された人間どもが絶対に言いたがらないことだ。わかっていながら知らないふりをしてとぼけていることと言ってもいいだろう。それを話そうか。


 占いは、実は差別の代わりなのである。人間は差別をしたいのだ。しかし差別をしちゃいけないと言われているから、その代わりとして占いをするのだ。

 たとえば、自分の彼氏は将来どういう人間になるだろうかというので占いをする。そして、水瓶座でB型だから彼はきっと将来エンジニアになるんだわ、なんてことを言って喜んだり心配したりしている。ところが、もっと確実に当たる占いがあるのだ。なぜそれをやらないのか。

 それは、私が唱えている呉智英式占いだ。三つの要素を組み合わせる。一つ、偏差値。一つ、出自出身。もう一つ、階層階級。この三つを組み合わせれば、その人間の将来などたちどころにわかる。

 典型例を言おう。偏差値が高くて、在日朝鮮人子弟で、しかも実家が大きな焼肉屋やっていて富裕である。この三つが当てはまる人間は、将来、ほかの条件の人よりも医者になる確率が高い。当たり前だ。就職差別されないためには手に職をつけねばならない。医者は最適だ。だが、そのためには頭が良くないといけない。それに、医大に行くには金がかかる。だから、この三つが当てはまる彼は医者になる確率が高いわけだ。

 このように、この三つの要素で、その人間の将来はほとんどわかる。O型で獅子座で六白金星だから医者になるなんていうのより、はるかに確実なはずだ。にもかかわらず、それをやらない。やれない。差別に触れるからなのだ。能力差別、身分差別、民族差別、階級差別になってしまうからだ。


 近代は、まず貨幣によって、差別を含む差異をなくすところから始まった。ユダヤ人が使おうと賤民が使おうと一ポンドは一ポンドだ。さらに、民主主義や人権思想が差別はイカンと叫んだ。とすれば、根本的なところで近代批判を言うのなら、人間は平等じゃないんだ、馬鹿は馬鹿なんだとはっきり言わないといけない。本当の近代批判とは差別の意味を復活させることなのだから。


 さて、差別はいけないという思想と制度は広まったけれど、一方で、差別をする必要は厳然と存在しているし、差別をしたいという気持ちも誰にもある。この両者を折衷すると、ほら、まさに今流行の血液型占いや星占いによる人間の分類だ。


――前世占いというのも流行っておりますね。あなたの前世は、アトランチス帝国のお姫さまですなどと(笑)。前世に高身分を保障するらしゅうございますよ。


夫子曰 明治になって身分制度が撤廃されたとき、みんなが争って武士や貴族の家系図を金を出して買ったのと同じだよ。明治以前の日本の人口の九〇%以上は、農民、漁民。文字通り名もなき庶民(姓がないのだからな)だったのだがね。やっぱり自分を美化したいわけさ。

呉智英『サルの正義』双葉文庫