夢変化

夢変化

夢変化

 エンデ 『鏡のなかの鏡』の世界観。未読の人は以下の記事を読まない方がいい、と思わないでもありません。


教室では雨がたえまなく降って

 「けれどもここから外には出られないわ」と花嫁が叫ぶ。「ドアがしまってるんだから」

 「どこでだって外に出られるさ」と少年が返事をする。「夢変化(ゆめへんげ)することができるならね」

 「それはどんなふうに?」とアーモンド形の眼の少女がたずねる。そして翼の少年が質問を追加する。

 「夢変化ってのは、どういうこと?」

 「なにもかも馬鹿ばかしい!」と役人が叫んだ。

 「夢変化」と綱渡りの衣裳の少年が言う。「それは新しい物語をひとつ考えだして、自分でそのなかへとびこむことなんだ。それをまだ知らないなんて、きみたち、いったいこの学校でなにを習ってるの?」

 「じゃ、あんたはどこで習ったの?」と脂肪太りの婆さんが知りたがる。

 「ぼくが自分で考えだした夢変化人のところでさ」と少年がこたえた。

 「それじゃ、あなた、ほんとうに夢変化できる?」と少女は息をのんでたずねる。「そして、わたしたちに教えられる?」

 「ちゃんとね!」と少年はこたえた。「ただね、一人でやるのは、いちばんむずかしい。二人だと、もうそれだけでずいぶん簡単になる。そして、たくさんの人がいっしょにやると、いつでもうまくいく。本物の夢変化人ならみんな知ってることだけどね!」

 「じゃ、新しい物語をひとつ考えだすには、どうやればいいの?」と花嫁が質問する。

 「とっても簡単なことさ」と少年が説明する。「みんなでいっしょに芝居を演(や)るんだよ」

 「ああ神さま」と太った婆さんがうめく。「そんなにたくさんセリフおぼえられない」

 「じゃ、ぼくたちの芝居のお客はだれだい?」と医者がたずねる。

 「ぼくら自身をお客にするんだ。ぼくらは観客で俳優なのさ。で、ぼくらの演ることが現実なんだよ」

 「けど、じゃ、なにを演るんだい?」と翼の少年が知りたがる。

 「前もっては、けっしてわからない」と少年がこたえた。「ともかくはじめるのさ」

 「でもひどい失敗をすることもあるわ」と花嫁は言う。「するとわたしたち、どうなるの?」

 少年は肩をすくめる。

 「前もって知りたい人には、夢変化なんてできやしない」

ミヒャエル・エンデ 丘沢静也訳『鏡のなかの鏡 迷宮』岩波現代文庫
鏡のなかの鏡―迷宮 (岩波現代文庫)

鏡のなかの鏡―迷宮 (岩波現代文庫)