大聖

大聖

 「王さまは、天界に長らく御滞在でございましたが、どのような官職を頂戴なさいましたので?」

 そこで悟空が

 「玉帝は人を見る目がなくて、わしを『弼馬温』とやらに任じおった」

と言えば、鬼王、

 「王さまは、神通力がおありになりながら、なんで馬飼いなどをなさいますので? 『斉天大聖』になられても、よいではありませんか」

 そのことばを聞くと、悟空はうれしくてたまらず、

 「なるほど、なるほど」

となんどかつづけざまに叫び、それから四人の健将に、

 「さっそく、旗を仕立てて、その上に大きな文字でもって『斉天大聖』と書くのだ。それから、竿を立てて、それを掛けてくれ。これからは、わしを斉天大聖と呼ぶのだ。もう大王と呼んではならぬ。これは各洞の妖王にも伝えておけ」

と言いつけましたが、このことはお預かりといたしましょう。

小野忍 『西遊記』(一) 岩波文庫

 こちらは悟空、戦いに勝って山にもどると、七十二洞の妖王、ならびに六人の義兄弟が、みんなお祝いにやって来ました。洞天福地に在って、飲む楽しみは格別です。悟空は六人の兄弟に向かって、

 「みどもはすでに斉天大聖と名のっているのだから、諸君も大聖と名のってかまわないぞ」

 すると、牛魔王が突然大声をあげて、

 「なるほど、なるほど。わしはさっそく平天大聖と名のることにしましょう」

 つづいて蛟魔王が、

 「わしは覆海大聖と名のることにします」

 つづいて鵬魔王が、

 「わしは混天大聖と名のる」

 つづいて獅駝王が、

 「わしは移山大聖と名のる」

 つづいて獼猴王が、

 「わしは通風大聖と名のる」

 つづいてぐう狨王*1が、

 「わしは駆天大聖と名のる」

 このとき、七人の大聖は、思い思いに自分の名のりを考え、一日楽しく遊んで、それぞれ引き取りました。

小野忍 『西遊記』(一) 岩波文庫

*1:ぐうは「けものへん」に「隅」のつくり