屠殺ごっこ

屠殺ごっこ

[][][]グリム童話 二五 子どもたちが屠殺ごっこをした話

第一話

二五 子どもたちが屠殺ごっこをした話

(一)第一話


 西部フリースランド(オランダ)にあるフラネッケルという名まえの小都会で、五歳(いつつ)か六歳(むっつ)ぐらいの女の子と男の子、まあそういったような齢(とし)のいかない子どもたちが遊んでいました。

 やがて、子どもたちは役わりをきめて、一人の男の子に、おまえは牛や豚をつぶす人だよと言い、もう一人の男の子には、おまえはお料理番だよと言い、またもう一人の男の子には、おまえは豚だよと言いました。

それから、女の子にも役をこしらえて、一人は女のお料理番になり、もう一人はお料理番の下ばたらきの女になることにしました。この下ばたらきの女は、腸づめをこしらえる用意として、豚の血を小さい容器(いれもの)に受ける役目なのです。

 役割がすっかりきまると、豚をつぶす人は、豚になるはずの男の子につかみかかって、ねじたおし、小刀でその子の咽喉(のど)を切りひらき、それから、お料理番の下ばたらきの女は、自分の小さないれもので、その血をうけました。


 そこへ、市(まち)の議員がはからずとおりかかって、このむごたらしいようすが目にはいったので、すぐさまその豚をつぶす人をひったてて、市長さんの家へつれて行きました。市長さんは、さっそく議員をのこらず集めました。


 議員さんがたは、この事件(こと)をいっしょうけんめいに相談しましたが、男の子をどう処置(しまつ)していいか、見当がつきません。これが、ほんの子どもごころでやったことであるのは、わかりきっていたからです。ところが、議員さんのなかに賢い老人が一人あって、それなら、裁判長が、片手にみごとな赤いりんごを、片手にライン地方で通用する一グルデン銀貨をつかんで、子どもを呼びよせて、両手を子どものほうへ一度につきだしてみせるがよい。もし、子どもが、りんごを取れば、無罪にしてやるし、銀貨のほうを取ったら、死刑にするがよいと、うまいちえをだしました。


 そのとおりにすることになりました。すると、子どもは、笑いながら林檎をつかみました。それで、子どもは、なんにも罰をうけないですみました。

金田鬼一訳『グリム童話』岩波文庫

第二話

(二)第二話


 あるとき、 おとうさんが豚を屠殺(つぶ)すところを、その子どもたちが見ました。やがて、おひるすぐになって、子どもたちが遊戯をしたくなると、ひとりが、もう一人の小さい子どもに、

「おまえ、豚におなり。ぼくは、ぶたをつぶす人になる」と言って、抜き身の小刀(ナイフ)を手にとるなり、弟の咽喉(のど)を、ぐさりと突きました。


 おかあさんは、上のおへやで、赤ちゃんをたらいに入れて、お湯をつかわせていましたが、その子どものけたたましい声をききつけて、すぐかけおりてきました。そして、このできごとを見ると、子どもののどから小刀を抜き取るが早いか、腹たちまぎれに、それを、豚のつぶしてであったもうひとりの子の心臓へ突きたてたものです。


 それから、たらいのなかの子どもはどうしているかと思って、その足でおへやへかけつけてみましたら、赤ちゃんは、そのあいだに、お湯のなかでおぼれ死んでいました。


 これが原因(もと)で、妻は心配が嵩(こう)じて、やぶれかぶれになり、めしつかいの者たちがいろいろなぐさめてくれるのも耳に入らず、首をくくってしまいました。


 夫がはたけからかえってきました。そして、このありさまをのこらず見ると、すっかり陰気になって、それから間もなく、この人も死んでしまいました。

金田鬼一訳『グリム童話』岩波文庫