岩波ブックレット 刊行のことば

岩波ブックレット 刊行のことば

「岩波ブックレット」刊行のことば

 今日、われわれをとりまく状況は急激な変化を重ね、しかも時代の潮流は決して良い方向に向かおうとはしていません。今世紀を生き抜いてきた中・高年の人々にとって、次の次代をになう若い人々にとって、また、これから生まれてくる子どもたちにとって、現代社会の基本的問題は、日常の決定と深くかかわり、同時に、人類が生存する地球社会そのものの命運を決定しかねない要因をはらんでいます。

 一五世紀中葉に発明された近代印刷術は、それ以後の歴史を通じて「活字」が持つ力を最大限に発揮してきました。人々は「活字」によって文化を共有し、とりわけ変革期にあっては、「活字」は一つの社会的力となって、情報を伝達し、人々の主張を社会共通のものとし、各時代の思想形成に大きな役割を果たしてきました。

 現在、われわれは多種多様な情報を享受しています。しかし、それにもかかわらず、文明の危機的様相は深まり、「活字」が歴史的に果たしてきた本来の機能も衰弱しています。今、われわれは「出版」を業とする立場に立って、今日の課題に対処し、「活字」が持つ力の原点にたちかえって、この小冊子のシリーズ「岩波ブックレット」を刊行します。

 長期化した経済不況と市民生活、教育の場の荒廃と理念の喪失、核兵器の異常な発達の前に人類が迫られている新たな選択、文明の進展にともなって見直されるべき自然と人間の関係、積極的な未来への展望等々、現代人が当面する課題は数多く存在します。正確な情報とその分析、明確な主張を端的に伝え、解決のための見通しを読者と共にもち、歴史の正しい方向づけをはかることを、このシリーズの基本の目的とします。

 読者の皆様が、市民として、学生として、またグループで、この小冊子を活用されるように、願ってやみません。

 (一九八二年四月 創刊にあたって)

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