我々の敵は

我々の敵は

対談 われらの内なる「ナベツネ」

個なき「たち」

玉木 じつは最近、ぼくはプロ野球の選手会のシンポジウムに招かれまして、「一言で端的に言いますが、我々の敵はナベツネです」と言って、ナベツネ批判をさんざんした。

魚住 へえ。

玉木 実際なにを論じても、けっきょくナベツネ批判になるんです。

 たとえば、セパ両リーグの交流試合をしようと言って、なぜできないのか、それは巨人中心というシステムのせいでありナベツネのせいだとか、全部ナベツネにいくわけですよ。古田に「選手会会長で交渉していて、相手には決定権があるのか」ときいたら、「いや、出てくる人には決定権がない」と。「だったら誰だ、決定権があるのは」「いや、それは先ほどから名前の出ている人で」とか、全部そっちへ話が行く。

魚住 そうでしょうね。

玉木 ぼくは最後に「ナベツネが我々の敵だ」と繰り返しました。会場には応募してきた一般のプロ野球ファンが二百人、マスコミが百人、東京のテレビ局は全部来ていました、ぼくはそこで「明日、こういう話があったということを絶対書いてくれ、テレビでも放送してくれ」と切に頼んだ。話の途中でも何度も言ったんですよ。でも翌日の新聞報道はゼロ。

魚住 ゼロ(笑)。

玉木 ここではちゃんと活字にしてください(笑)。たったひとつ、フジテレビの「すぽると!」という番組が「我々の敵はナベツネです」という一言を放送してくれてた。後から取材にも来て、あの話をもっと展開したいというんで、番組を二回か三回つくったんですけどね。その番組のディレクターだけがやってくれたんです。

魚住 そのディレクターには個がある。

魚住昭『渡邉恒雄 メディアと権力』講談社文庫 p461-

対談 われらの内なる「ナベツネ」

オーナーとして

玉木 ところであの人、オーナーを辞めると発表したとき(二〇〇三年六月十日)に、「野球なんかにかかわっている場合じゃないんだ」という言い方をした。

魚住 そうでしたね。

玉木 その程度の考えなのかというのがぼくの意見なんですよね。というのは、アメリカではスポーツ産業というのは二十兆円産業で、自動車産業を凌駕するぐらいのものです。ヨーロッパにおけるサッカーを中心としたスポーツ産業も、もう二十五兆円という巨大ビジネスに成長して、それがまた個々の地域社会と結びつく。地域経済や国家経済、さらには国際経済まで動かしていることが、彼にはまったく見えてないわけなんですよね。

魚住 読売ジャイアンツはおれのおもちゃだと。

玉木 だから、野球なんかにはもはやかかわっていられないという言葉しか出てこない。

魚住 「野球なんかにはかかわっていられない」という言葉を聞いて思ったのは、負け惜しみじゃないかなということです。いま巨人の凋落って、すごいでしょう。視聴率なんか見てて。

魚住昭『渡邉恒雄 メディアと権力』講談社文庫 p462-

対談 われらの内なる「ナベツネ」

オーナーとして

魚住 ジャイアンツの試合を見たいと思わなくなってくる。

玉木 いまはもう、松井まで逃げ出しちゃった。

魚住 だから、ナベツネさんのあの言葉は自分なりに考えて、カネはさんざんかけたのに、よけい視聴率は落ちちゃった。そういう状況にたいする、ある種負け惜しみじゃないかと思いましたね。そもそも読売は正力松太郎さん、務台光雄さんの時代から新聞の拡販を支えているのが巨人軍であるという認識でずっとやってきましたよね。

玉木 そうですね。

魚住 だから、渡邉さんはそれまで野球のことを全然知らなかったのに、読売のトップになる直前の江川問題ぐらいのときから介入しはじめましたよね。

玉木 でも、トレード相手のタイガースの小林の顔も知らない。

魚住 そうそう、顔を知らなかった。だっってバッターが打って、一塁のほうに走るのを不思議がったというんですよ。なんであっち(三塁側)には行かないんだと言うくらいルールに無知だった人間です。それが読売の経営陣に加わるにしたがって、彼は今後、自分が新聞を経営していく上での巨人の重要性をものすごく認識して、それから一生懸命野球に入っていきます。

玉木 そしてファンに嫌われていく(笑)。

魚住昭『渡邉恒雄 メディアと権力』講談社文庫 p462-

対談 われらの内なる「ナベツネ」

Jリーグとのあつれき

玉木 (略)

 巨人が中部読売、西部読売の赤字を埋めているのと同じように、あるいは日本テレビの視聴率を支えているのと同じような役割を、読売日本サッカークラブに託そうと思っていたら、Jリーグがまったく新しいスポーツの理念というのを打ち出した。各自治体にどんどんJリーグのチームをつくる。それが地域社会の活性化につながるんだと言い出した。

 それに対してナベツネさんは、ジェフ・ユナイテッドの松田(昌士)さんあたりと組んで、チームを増やしたらおれたちの利益がなくなるじゃないか、いまのプロ野球のようにしようと言い出した。

魚住 チーム名の呼び方もそうですよね。

玉木 企業がカネ出してるんだから、企業名で呼ぶのが当然じゃないか。

 要するにサッカーの巨人化をやろうとしたんですね。別リーグをつくるところまでいきたかった。

魚住 川淵(三郎)さんはどうしたんですか?

玉木 どうぞ別リーグをおつくりください、という態度だったんですよ。ただしFIFAという組織には入れませんよ、と。日本サッカー協会の上にFIFAがあるわけですね。日本サッカー協会以外の別リーグをつくったら、そこの選手はワールドカップに出られない、オリンピックにも出られない。そんなリーグに誰が行くか。

魚住 そうかそうか。

玉木 これは川淵さん自身が言ってたんですけど、まったく恐くなかったというんです、ナベツネさんの恫が。「ワールドカップに出られないところにどんな選手が入るんですか」と言えば、終わりだと。これはナベツネさんもわかったと思うんです。そういう動きのなかで、ナベツネさんはまず、読売新聞にサッカーから手を引かせちゃうわけですね。

魚住 引きましたね。

魚住昭『渡邉恒雄 メディアと権力』講談社文庫 p462-

渡邉恒雄 メディアと権力 (講談社文庫)

渡邉恒雄 メディアと権力 (講談社文庫)