我に草薙の剣あり

我に草薙の剣あり

 日比谷焼打ち事件のスローガン

徳富蘇峰論

 ところが蓋をあけてみると、償金のことなんか一言もかいていない。バイカル以東なんてとんでもない話。

 そこで国民は呆れたり驚いたり腹を立てたりしたし、新聞は一紙を除いてことごとく政府の弱腰を非難した(ビン・シンさんの『評伝徳富蘇峰』から孫引きすれば、都新聞はかう書いた。「此の屈辱条約に満足する者ありとせば、四千万同胞中僅かに十六人あるのみ。其の十人は内閣員なり。其の四人は元老なり。他の二人は高平全権委員と徳富蘇峰なり」と)。条約が締結される九月五日には慷慨家、不平家、扇動家が主唱して日比谷公園において国民大会が開かれた。

 抗議集会に会するもの、約三万る

 ここからは木村毅の『竹久夢二』を参照して書くことにしますが、群衆は


  我に草薙の剣あり

  泣訴天国


と書いた大風船二個をあげ、全員に、黒い喪章をつけた紙製の国旗を振らせて気勢をあげる。

 この草薙の剣云々は、焼打ちをしさしてますね、はつきりと。

 たちまちにして警官と衝突し、内務大臣官邸は襲はれ、警察署およびその分署の焼かれるもの十数ケ所、軍隊が出動して戒厳令がしかれたが、

「桂総理は陛下の軍隊に妾の家を護衛させてゐるぞ」

 と叫ぶ者があつたため群衆はいよいよ興奮し、激昂し、騒擾はやむことがなかった。

丸谷才一『絵具屋の女房』文春文庫
絵具屋の女房 (文春文庫)

絵具屋の女房 (文春文庫)