最初の十人

最初の十人

イエス・キリストとは何か……謎・その1

 イエス・キリストの生涯は、おおよそのことは知ってますね。ブッダのことは知らなくてもね(笑)。

 でも、史実としてイエスその人についてわかっていることは、ほんのわずかです。というのも、イエスがイエス・キリストとして活動していた期間はたいへん短くて、三十一歳のときに「荒野のヨハネ」という預言者から神の世界を教えられて、三十五歳のときにゴルゴダの丘で十字架に磔(はりつけ)になってますから、せいぜいその五年くらいの活動です。ジーザス・クライスト・スーパースターといったって、その活躍期はほんの短い期間だったわけです。たった五年間です。

 もっとも、諸君にとっては身近なミュージシャンだった尾崎豊も、XジャパンのHideも自殺したらしいですが、絶頂期はそんなに長くはなかった。せいぜい五~六年でしたね。いや、ミュージシャンだけではなく、世界史上で活躍した大きな業績を残した人物も、活躍の中心期が五年とか十年くらいにピークがあったということは、いくらでもある。

 けれども言いかえれば、本当に何かをやりたければ、この五年という期間は非常に大きいものなんです。

 ファミコンが広まったのも、ケータイ電話が広まったのも、五年もかからなかったでしょう。逆にいえば、五年もあれば、何だってできる。そういうふうにも考えられる。イエス・キリストが生きた五年間がまさにそうでした。

 さらにいえば、イエスの五年間のことをある程度くわしく知っていたのは、ペテロ以下の十数人の弟子だけでした。前回話したブッダの最初の弟子が十人。釈迦十大弟子といいますが、でも結局はこの十人が仏教の誕生に、あるいは十二人がキリスト教の誕生に大きくかかわったわけです。ですから、何かをおこしたければ、最初の十人をまず作るべきなんです。そしてそのコア・メンバーとともに五年を集中するべきです。それ以上はいらない。幕末の吉田松陰の松下村塾だって、せいぜい二年です。

松岡正剛『世界と日本の見方』春秋社
17歳のための世界と日本の見方―セイゴオ先生の人間文化講義

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