泥くさい

泥くさい

スマート の対義語

「アパートに帰って、押入れの奥から古新聞をひっぱり出したら、手ごろな外電があった。それを引用して、でっちあげたんだ。西独には警報器持参の泥棒さわぎがあった。つまり、泥棒が警報器をつけて仕事をし、見まわりが来ると、光の点滅でそれを知り、姿を見られないうちに逃げてしまう。それにひきかえ、わが国の犯罪の泥くさいこと。それから、もっともらしく国民性に言及し、輸出商品のスマートさの重要性を論じた。けっこう好評らしかった。また書いてくれ、と言われたからね」

「それで、書いたの?」

「ああ、同じようなことさ。こんどは少年犯罪。英国の悪童たちが、デパートにネズミを何匹も持ちこんで、いっせいに放して万引をした。それにひきかえ……」

「わが国のは泥くさい、というのでしょう」

「そうだ。外国の例をあげ、わが国のと比較し、泥くさいとやればいいらしい。そのこつを発見し、身につけたという次第だ」

 二人は、運ばれたきたコーヒーを口にした。須美子は、なにげなく聞いた。

「だけど、その資料を集めるのが大変でしょうね」

「なんとかなるさ。そのうち、ある月刊誌から注文がきた。その業界紙の記者が推薦してくれたらしい。ちょうど、床下から死体が出たニュースのあったころで、それと比較して外国のスマートな例をあげた」

「どんな方法なの」

「自分の家の前の道路を、白昼堂々と掘りかえし、死体を土管につめて埋めてしまった、という話だ。外国でも、道路工事は年中行事らしいな。ぼくも、東京の都市計画のなまぬるさを、ついでに攻撃し、読者も喜んだらしい」

「本当に、そんな事件が外国にあったの」

「知らないけど、ありそうな話じゃないか。アメリカの雑誌のスリラー漫画に出ていたんだが」

「そこまでいったら、無責任よ。読者に悪いじゃないの」

「そんなことはないよ。読者というものは、小説に対しては事実らしさを求め、事実に対しては小説的な面白さを期待している。いまは事実と小説の名称が、交代しつつある時期らしい。ぼくなどは、その先駆的な存在だ」

 黒田は、ちょっと得意そうな口調になった。だが、須美子は異議をとなえた。

「でもねえ、そんなことをして、犯罪者を育成してしまうことになるでしょう」

「大丈夫だよ。絶えず、外国のはスマートだが、わが国のは泥くさい泥くさい、とけなしているんだから、犯罪をおかそうとする者が読めば、おれはとてもだめだ、と劣等感を持つようになる。害の点なら、犯人を英雄化してしまう映画のほうが、もっと大きい」

星新一『きまぐれ指数』新潮文庫