破術の法

破術の法

「ウーム、おのれ邪法の外道め、見ておれよ!」

 水勢に巻かれて、むなしく立ち往生してしまった主従三人は、もう胸の上まで濁水にひたって、樹の枝につかまりながら、敵のゆくえをにらんでいたが、そのとき、加賀見忍剣は、はじめて破術の法を思いだして、散魔文の秘句をとなえ、手の禅杖をふりあげ、エイッ! と水流を切断するように打ちおろした。

 水面をうった法密の禅杖に、サッと水がふたつに分れたと思うと、散魔文の破術にあって狼狽した呂宋兵衛は徒歩になってまッしぐらにかなたへ逃げだし、まんまんと破流をえがいていた濁水は、みるみるうちに、一抹の水蒸気となって上昇してゆく……そして松並木の街道は、ふたたびもとののどかな朝にかえっていた。

吉川英治『神州天馬侠』2 講談社文庫