趙達

趙達

[趙達伝]

 趙達(ちょうたつ)は、河南郡の人である。若いとき、漢の侍中の単甫(ぜんほ)のもとで学問を受け、その思考は精緻で綿密であった。彼は、東南の地には王者の気があるので、そこに行けば災難を免れることができると考え、わが身一つで戦乱を逃れて長江を渡った。

 趙達は、九宮一算の術をマスターして、その奥深い意味を窮め、それゆえに臨機応変に対策を立てることができ、人々の疑問に対し神のような判断を下した。飛蝗(いなご)の発生の多少を計ったり、かくされた物の名を占ったりすることまで、彼の判断が適中せぬこととてなかった。ある人が趙達を非難していった、「飛ぶものは、当然のことながら、その数を数えることはできぬのであるから、あなたのいった数が正しいかどうかは誰にも分りはしない。おそらくはでたらめをいったにすぎぬのであろう。」(これを聞いた)趙達は、その者に小豆数斗を持ってこさせると、敷き物の上にばらまかせて、すぐさまその小豆の数を占っていったが、実際に小豆の数を確かめたところ、趙達のいうとおりであった。またあるとき、知人のもとに立ち寄ると、その知人は趙達のために食事を用意した。食事が終ると、知人は趙達にむかっていった、「急なことで酒を切らし、またよい肴もなくて、十分なおもてなしのできぬこと、申し訳ありません。」趙達は、それを聞くと、盤(おおざら)の中から一本の箸を取り、幾度か横にしたり縦にしたりしていたが*1、やがていった。「お宅の東壁のもとに美酒が一石あり、また鹿肉も三斤あるのに、なぜないとおっしゃるのか。」このとき、他の客も同座していて、主人(あるじ)がかくしていたことがみなにばれてしまった。主人は恥じ入っていった、「あなたがよく当てものをなさるので、ためしてみようと思ったまでです。思ったとおり、かくもみごとに当てられました。」そこで酒を持って来て大いに飲んだ。また、簡(ふだ)の上に(倉庫の貯蔵量として)何千何万という数を書きつけ、からっぽの倉庫の中にそれを置いて封印をすると、趙達にその中身を占わせた者があった。趙達は、その数を正しくいい当てるとともに、いった、「これは名ばかりで実際の中身はありません。」彼の占いの術が精緻を極めているのは、こんなふうであったのである。

陳寿 裴松之注 小南一郎訳『三国志』8 ちくま学芸文庫

*1:箸を算木のかわりにしたのである。この時代の算木は細長く、箸に似る。