Vitam verro impendenti

Vitam verro impendenti

「真理のためには命を捧げる人に」

 ユウェナリスの「Vitam impendere vero」がルソーの座右銘

第四の散歩

 今もってときおり繙く少数の書物のうちでも、僕にはプルータルコスがいちばんおもしろく、また、得るところもいちばん多い書物である。これは僕の幼年期における最初の読書だったが、僕の晩年における最後のものにもなるであろう。読むごとに、かならず何らかの獲物を得るという点で、これは唯一の著書だといっていい。一昨日も、彼の教訓的な作品の中から、「人はいかにして敵から利益が得られるか」という論文を読んだ。たまたま同じ日、多くの著者から寄贈を受けた小冊子を整理していたら、ロワユー師の日録の一冊が目にとまった。 Vitam vero impendenti, Royou *1(真理のためには命を捧げる人に。ロワユーより)という文句を師はその表題につけている。こういう連中の言いまわしを知りぬいている僕が、これに騙されるはずもなかった。このように丁重を装いながら、その実、残酷な反語を言ったつもりだぐらいは僕にとてわかる。それにしても、何の根拠があってのことだろう? なぜこのようないやみを言うのだろう? このように言われる覚えが僕にあるだろうか? さっそくながら、わがプルータルコスの教訓を利用せんものと、翌日の散歩は、虚言について反省してみることに決めたのである。そして、デルフ神殿にある例の「汝みずから汝を知れ」は、僕が「告白録」を書いた当時信じたごとく、実行できる格言ではないという確信をもって、その散歩をはじめたのだった。

ルソー 青柳瑞穂訳『孤独な散歩者の夢想』新潮文庫

*1:訳注一 Vitam impendere vero ――「真理のためには命を捧げる」はラテン詩人ジュヴェナーリスの言葉で、ルソーが座右銘としていたもの。