蜀犬 日に吠ゆ

1901-01-19

[][]一月十九日 自然的素質や生の目的の点で、人間は はてなブックマーク - 一月十九日 自然的素質や生の目的の点で、人間は - 蜀犬 日に吠ゆ

眠られぬ夜のために〈第1部〉 (岩波文庫)

眠られぬ夜のために〈第1部〉 (岩波文庫)

一月十九日

 自然的素質や生の目的の点で、人間は動物と同様だという考え方を、あなたの確信としてはならない。むしろ、このような近代的見解に対しては、全力をもって抵抗しなさい。なんと言っても、そんな考え方は、せいぜい科学的仮説にすぎず、しかもその仮説の証明はまだなされていないし、永久になされないであろう。

 だが、このような見方によれば、人間を動物から区別するもっとも重要な点が見失われる――そのかぎりではこの仮説はたぶん正しいであろう――、そして残された両者の区別はもはや大した価値のないものとなる。この岩礁に乗りあげて、いまや、実に多くの人びとの幸福が、ときには全国民の幸福さえもが難破しつつある。この問題に全然ふれないならば、たんなる教会*1主義的な信仰だけでは、それに対抗するいささかの助けともならない。ダーウィン主義の思想と対決するには、生活を支配するほどの確固とした信念がなければならない。


 現代の人間が、たんなる哲学的思索によって、あるいは近代的自然科学と宗教を結びつける試みによって、確固たる神の信仰に到達した例を、私はかつて見たことがない。このような信仰は、むしろ実践的要求から生じる場合がはるかに多い。というのは、外的な幸福もそうだが、とりわけ永続的な内的満足に達する道は、それ以外にはまったく見出せないからである。高きを求める個々の魂にとっては、深遠な理想主義とも十分一致する霊的存在に対する信仰とさらに(人間の本性の最下等の本能によってではなく)最高の理念によって支配される世界に対する信仰とが、生きるための切実な要求である。このような信仰がなければ、自己の存在を理解することはできないし、また、人生のあらゆる困難にもかかわらず、心やすらかに、生存をつづけることができない。そのような人びとのために、イギリスのある女流詩人が次のように歌っている。


  いや、ためらうな――いと気高きものを求めるのは、

  たしかな善、あなたのただ一つの善である。

  あなたにはもうそれがわかった。あの崇高なみ姿が、

  あらゆる卑しい選択を永久にしりぞけたから。

ヒルティ著 草間平作・大和邦太郎訳『眠られぬ夜のために』第一部 岩波文庫

*1:ヒルティはキリスト教の信仰に教会に果した意義を高く評価したが、しかし教会の形式主義や偏狭な態度に批判的であった。二月一日、三月八日のことば参照。