蜀犬 日に吠ゆ

1901-01-24

[][]一月二十四日 あすのことを思いわずらうな はてなブックマーク - 一月二十四日 あすのことを思いわずらうな - 蜀犬 日に吠ゆ

眠られぬ夜のために〈第1部〉 (岩波文庫)

眠られぬ夜のために〈第1部〉 (岩波文庫)

一月二十四日

 「あすのことを思いわずらうな。一日の苦労はその日一日だけで十分である」(マタイによる福音書六の三四)。この有名な言葉の後半はきわめて明白である。そこで、だれでもすぐこう言う、前半の命令も、それが実行できることでありさえすれば、よろこんで賛成したい、実際そうなれば人生はずっと楽になるだろうから、と。だが、この言葉は実行できるものである。ただし神の導きに従うかぎりにおいて。実際、神の導きは最もすぐれた人間の知恵よりもはるかに賢く、ことにその企て給う時期を失することがない。人間の知恵は往々周りの状況や自分の力をひどく見そこない、えてして「自分の足をまだ大きすぎる靴に入れ」がちである。

 この世でいつもキリスト教に逆らう最大の障害は、キリスト教に入らないものには、この教えの命ずるままに生きる可能性が、全く想像もできないところにある。それはもとより当然である。なぜなら、信仰に入れば、人その人が全く別人になるからである。信仰以前と同じ人間でなくて別の人が、前とちがって考え、ちがって行動するようになる。しかしそれには、まず元のままの(古い)人間が思いきって最初の「暗がりへの跳躍」を試みなければならない。そうするためには、もちろん、アウグスティヌスやカルヴァンのいわゆる「恩寵の選び」が必要である。しかしそれは、すべての人間に生涯に一度や二度は必ず与えられるものであり、その時それをとらえて生かさなければならない。

ヒルティ著 草間平作・大和邦太郎訳『眠られぬ夜のために』第一部 岩波文庫