蜀犬 日に吠ゆ

1901-02-03

[][]二月三日 キリストみずからは、神を はてなブックマーク - 二月三日 キリストみずからは、神を - 蜀犬 日に吠ゆ

眠られぬ夜のために〈第1部〉 (岩波文庫)

眠られぬ夜のために〈第1部〉 (岩波文庫)

二月三日

 キリストみずからは、神を怒りの父などと言い表わしたことは一度もない。それが最も言われそうな、あの放蕩息子の喩え話(ルカによる福音書一五の一一以下)においても、そうではなかった。また旧約聖書もその最も美しい個所には、そのような見解は見あたらない。イザヤ書四三の一八―二五、四八の九―十一。

 ところが、人間がのちになって、このような「神に対する恐れ」を述べたてて、きわめて多くの人たちに、神への信仰をいとわしいものにしてしまった。神の怒りとは、実は、神がわれわれの生活から遠ざかったために、地上のどんな財宝があろうとも、また学問、芸術、交通あらゆる進歩があろうとも、われわれの生活は現代のように内的に荒廃し、慰めのないものになったということ、主としてこの点に存する。この大地は昔のままであり、おそらく前よりよく耕されているであろう。しかし太陽が欠けている。人間の行いのなかにあるべき、またありうる祝福がないのである。

 このような罰は全くひとりでに現われる。それは、人間によって不遜にも蔑視される神の普遍の世界秩序のなかに含まれているからだ。しか人間が誠実に悔い改めて、神の秩序に帰ってゆくならば、ゆるしが与えられることもまた確実である。


  神の祝福

 朝(あした)の露、ゆうべの雨を

 あなたはその民に約束された。

 あなたの祝福はさまざまな姿で

 たえすわれらのうえにふりそそぐ。


 かぎりなく多くの者は死へおもむき、

 一日も怖れのない日はなかった。

 しか信実(まこと)をもってあなたにつき

 従った者にほろびたものはない。


 神の祝福とはいかなるものか

 いまだそれを究めた者はない。

 ただ、だれもが知っている一事は、

 すべてがこれにかかっているということだ。


 眠っているときに、足音しずかに

 祝福が訪れる者もあれば、

 そのとなりの家のあたりには

 たえず雷雲がたちこめることもある。


 すぐれた天賦にめぐまれながら

 すべての喜びに逃げられる者もあれば、

 悩みのさなかにあっても

 幸福の思いにあふれている人もいる。


 主よ、あなたの民の裔(すえ)は

 あなたへの信実の果実にあずかるが、

 他の者たちはおのれの罪のみか、

 親たちの罪をも償うべきでしょうか。


 主よ、あなたはわれら罪人には

 この秘義をさぐることをゆるさずとも、

 われらの子らの苦しみと喜びを

 願わくば、つねに祝福してください。

ヒルティ著 草間平作・大和邦太郎訳『眠られぬ夜のために』第一部 岩波文庫

ルカによる福音書 15

「放蕩息子」のたとえ

11 Then He said:"A certain man had two sons.

11 また、イエスは言われた。「ある人に息子が二人いた。


12 And the younger of them said to his father, 'Father, give me the portion of goods that falls to me.' So he divided to them his livelihood.

12 弟の方が父親に、『お父さん、わたしが頂くことになっている財産の分け前をください』と言った。それで、父親は財産を二人に分けてやった。


13 And not many days after, the younger son gathered all together, journeyed his possessions with prodigal living.

13 何日もたたないうちに、下の息子は全部を金に換えて、遠い国に旅立ち、そこで放蕩(ほうとう)の限りを尽くして、財産を無駄遣いしてしまった。


14 But when he had spent all, there arose a severe famine in that land, and he began to be in want.

14 何もかも使い果たしたとき、その地方にひどい飢饉(ききん)が起こって、彼は食べるにも困り始めた。


15 Then he went and joined himself to a citizen of that country, and he sent him into his fields to feed swine.

15 それで、その地方にある人のところに身を寄せたところ、その人は彼を畑にやって豚の世話をさせた。


16 And he would gladly have filled his stomach with the pods that the swine ate, and no one gibe him anything.

16 彼は豚の食べているいなご豆を食べてでも腹を満たしたかったが、食べ物をくれる人はだれもいなかった。


17 "But when he came to himself, he said, 'How may of my father's hired servants have bread enough and to spare, and I perish with hunger!

17 そこで、彼は我に返って言った。『父のところでは、あんなに大勢の雇い人に、有り余るほどパンがあるのに、わたしはここで飢え死にしそうだ。


18 I will arise and go to my father, and will say to him, "Father, I have sinned against heaven and before you,

18 ここをたち、父のところに行って言おう。『お父さん、わたしは天に対しても、またお父さんに対しても罪を犯しました。


19 and I am no longer worthy to be called your son. Make me like one of your hired servants."'

19 もう息子と呼ばれる資格はありません。雇い人の一人にしてください」と。』


20 "And he arose and came to his father. But when he was still a great way off, his father saw him and had compassion, and ran and fell on his neck and kissed him.

20 そして、彼はそこをたち、父親のもとに行った。ところが、まだ遠く離れていたのに、父親は息子を見つけて、憐(あわ)れに思い、走り寄って首を抱き、接吻(せっぷん)した。


21 And the son said to him, 'Father, I have sinned against heaven and in your sight, and am no longer worthy to be called your son.'

21 息子は言った。『お父さん、わたしは天に対しても、またお父さんに対しても罪を犯しました。もう息子と呼ばれる資格はありません。』


22 "But the father said to his servants, 'Bring out the best robe and put it on him, and put a ring on his hand and sandals on his feet.

22 しかし、父親は僕(しもべ)たちに言った。『急いでいちばん良い服を持って来て、この子に着せ、手に指輪をはめてやり、足に履物を履かせなさい。


23 And bring the fatted calf here and kill it, and let us eat and be merry;

23 それから、肥えた子牛を連れて来て屠(ほふ)りなさい。食べて祝おう。


24 for this my son was dead and is alive again; he was lost and is found.' And they began to be merry.

24 この息子は、死んでいたのに生き返り、いなくなっていたのに見つかったからだ。』そして、祝宴を始めた。


25 "Now his older son was in the field. And as he came and drew near to the house, he heard music and dancing.

25 ところで、兄の方は畑にいたが、家の近くに来ると、音楽や踊りのざわめきが聞こえてきた。


26 So he called one of the servants and asked what these things meant.

26 そこで、僕の一人を呼んで、これはいったい何事かと尋ねた。


27 And he said to him,'Your brother has come, and because he has received him safe and sound, your father has killed the fatted calf,'

27 僕は言った。『弟さんが帰って来られました。無事な姿で迎えたというので、お父上が肥えた子牛を屠られたのです。』


28 "But he was angry and would not go in. Therefore his father came out and pleaded with him.

28 兄は怒って家に入ろうとはせず、父親が出て来てなだめた。

29 So he answered and said to his father, 'Lo, these many years I have been serving you; I never transgressed your commandment at any time; and yet you never gave me a young goat, that I might make merry with my friends.

29 しかし、兄は父親に言った。『このとおり、わたしは何年もお父さんに仕えています。言いつけに背いたことは一度もありません。それなのに、わたしが友達と宴会をするために、子山羊一匹すらくれなかったではありませんか。


30 But as soon as this son of yours came, who has devoured your livelihood hith harlots, you killed the fatted calf for him.'

30 ところが、あなたの息子が、娼婦(しょうふ)どもと一緒にあなたの身上を食いつぶして帰って来ると、肥えた子牛を屠っておやりになる。』


31 "And he said to him, 'Son, you are always with me, and all that II have is yours.

31 すると、父親は言った。『子よ、お前はいつも私と一緒にいる。わたしのものは全部お前のものだ。



32 I was right that we should make merry and be glad, for your brother was dead and is alive again, and was lost and is found.'"

32 だが、お前のあの弟は死んでいたのに生き返った。いなくなっていたのに見つかったのだ。祝宴を開いて楽しみ喜ぶのは当たり前ではないか。』」

新共同訳『新約聖書』ギデオン協会