蜀犬 日に吠ゆ

1901-07-30

[][]七月三十日 いま仮りにわれわれに はてなブックマーク - 七月三十日 いま仮りにわれわれに - 蜀犬 日に吠ゆ

眠られぬ夜のために〈第1部〉 (岩波文庫)

眠られぬ夜のために〈第1部〉 (岩波文庫)

七月三十日

 いま仮りにわれわれについての神の思いに立ち入って考えることができるとすれば、われわれはこの上なく悲しい気分になるにちがいない。なぜなら、神はそのすべての業を、つねにただ人間を通じてのみなされるのであるが、しかし神みずからの意図どおりにそれを達成できるような、全く忠実な、感謝の念にもえる人間が以下にまれであるかが分るからである。モーセやパウロでさえ完全に信頼しうるしもべではなかった。また今日では、おそらくこの時代の最もよいしもべと思われるブルームハルト*1でさえ、一層大きな事業を企てないで、以前の牧師の職にとどまっていたなら、むしろ神のみ心をなし遂げえたであろう。この大きな事業は、メットリンゲン時代の牧会の務めにくらべて、つまらない世俗的なものに終ったからである。たいてい、地上における神の国のための大がかりな施設よりも、かえって小さな施設の方に、はるかに多くの祝福と栄えが宿るものである。なぜなら、「主は(ひとり)高くいらせられるが、低い者をかえりみられる」(詩篇一三八の六)、そして神はこの世のすべての傲慢なものや華やかなものから必ず離れておられるからである。このことは、絶対に信じてよろしい。

ヒルティ著 草間平作・大和邦太郎訳『眠られぬ夜のために』第一部 岩波文庫

*1:ヨハン・ブルームハルト(一八〇五―八〇)、初めメットンリンゲンの牧師としてはたらき、かたわら祈りによって病人を治した。のちバート・ポルに移って大規模な施療活動を行なった。(訳者注)