蜀犬 日に吠ゆ

1901-08-22

[][]八月二十二日 人生の楽しみを得ようと はてなブックマーク - 八月二十二日 人生の楽しみを得ようと - 蜀犬 日に吠ゆ

眠られぬ夜のために〈第1部〉 (岩波文庫)

眠られぬ夜のために〈第1部〉 (岩波文庫)

八月二十二日

 まことの人生の楽しみを得ようと思うならば、なによりもまず、その楽しみがいったい何にあるかをはっきりさせ、それを妨げるすべてのものを、断然さけなければならない。いかんながら、われわれはすでに人生も半ば以上を過ぎた時に、ようやくそこにたどり着くのが普通である。またもし余生がいくらも残されていないなら、ある程度のペシミズムに陥ることは、このような経験の避けがたい結果であろう。

 特定の事柄について十分に熟慮し、かつ賛否の理由をのこらず検討することによって――なお一層よいのは、自分の生活経験を通じて、――一旦はっきりした見解に達したならば、その問題はそれで片づけてしまい、それ以上の検討を一切やめなければならない。疑いはどんなことに対しても起りうるもので、とっくに片づいてしまった事柄についてさえそれは起る。人間の心の最も不幸な状態は、いわゆる懐疑主義であって、これは結局、一切のものを疑うようになるのである。

 人の心は、最後にいつか「堅固」にならなければならない。これはただ神の「恩寵によって」のみなされると使徒が言っているのは、たしかに正しい。しかし恩寵が与えられたならば、それを受けとり、そしてひとたび受けとったならば、固くそれを守らねばならない。そうでなければ、その人は愚かな人間であって、いつまでも不安定なのは当然である。

ヒルティ著 草間平作・大和邦太郎訳『眠られぬ夜のために』第一部 岩波文庫