蜀犬 日に吠ゆ

1901-08-26

[][]八月二十六日 犯罪者的素質 はてなブックマーク - 八月二十六日 犯罪者的素質 - 蜀犬 日に吠ゆ

眠られぬ夜のために〈第1部〉 (岩波文庫)

眠られぬ夜のために〈第1部〉 (岩波文庫)

八月二十六日

 犯罪者的素質の人というのは、気まぐれからにせよ、あるいは、自分の利益のためと思い込むにもせよ、あらゆる義務にそむき、その際じゃまになるすべての人を犠牲にすることができる者のことである。このような素質の人間が、みんなに尊敬される地位にいることもある。彼らが罪を犯さないのは、単なる偶然か、神の恵みによる。しかし彼らも、神の恵みと自分の自由意志とによって、その悪い天性を改め、聖徒にさえなれるということは、すこしの疑いもない。このような生まれつきだからといって、決して絶望してはならない。

 天上的素質の人とは、生れつきあらゆる悪と卑しいものをきらい、たえず他人のために自分を犠牲にすることを喜ぶような人である。いかんながら、ここでもつけ加えねばならないのは、このような人たちも悪くなることがあり、それも、不穏当な結婚によって起ることが最も多いという点である。静かな時に、あなたはどちらの素質の人間であるか、自問してみなさい(どちらの素質を持っているかは、あなたの責任ではない)。そして、どんな状況にあっても、善によって勝利をおさめてから、この世を去るのだと決心を固めなさい。


 生れながらの素質の相違や、生れた家柄のよしあしの差異は、もし人間に自由意志というものが存在せず、したがってこの上なくよい境遇からもエゴイストが生れ、泥沼のような世界からも気高い人間が出てくるということがなければ、たしかに人間の運命の不公平な配分を訴える一つの理由ともなるであろう。だが、そういうことは全く計算できないものであり、いずれにせよ変えがたいものではない。たしかに大多数の人たちは、もっぱらその実際の生活態度から判断すれば、右に述べた両極端の中間を占めているように見える。しかし彼らの本性の根本においては、そのどちらか一方にかならず属しているものだ。ひどい見込みちがいを経験したくないと思うなら、このことを見のがさないようにするがよい。

ヒルティ著 草間平作・大和邦太郎訳『眠られぬ夜のために』第一部 岩波文庫