蜀犬 日に吠ゆ

1901-09-16

[][]九月十六日 目の前に生きている信仰は はてなブックマーク - 九月十六日 目の前に生きている信仰は - 蜀犬 日に吠ゆ

眠られぬ夜のために〈第1部〉 (岩波文庫)

眠られぬ夜のために〈第1部〉 (岩波文庫)

 最も確実な、つねに目の前に生きている信仰は、歴史にもとづく信仰である。たしかに、神が人の心に近づいて来て、神がはっきり感じられるときや、個人的な経験によって神の存在についてあらゆる疑いが晴れる時もないではない。しかし、そういう瞬間をのぞけば、世界歴史が、そのなかでとりわけイスラエル民族の運命が、われわれに安心を与えてくれる。ギリシア人やローマ人はとっくに滅びてしまったのに、この民族だけが今日もなお一民族として存在しているのは、神がこの民族を棄て給わないからである。

 キリストについても、われわれは歴史によってのみ、本当にかたい信仰をいだくことができる。ロゴス理念による形而上学的思想内容などは、あらかじめ信じていない人たちに対してはほとんど説得力をもたない。

 神の義と愛とに絶望を感じはじめるやいなや、神の存在も疑わしくなってくる。なぜなら、義でも愛でもない神は、気高い心をもった人間には、やりきれない、いまわしい偶像としか考えられないからである。

ヒルティ著 草間平作・大和邦太郎訳『眠られぬ夜のために』第一部 岩波文庫