蜀犬 日に吠ゆ

1901-09-20

[][]九月二十日 忘恩は耐えがたいものである。しかし はてなブックマーク - 九月二十日 忘恩は耐えがたいものである。しかし - 蜀犬 日に吠ゆ

眠られぬ夜のために〈第1部〉 (岩波文庫)

眠られぬ夜のために〈第1部〉 (岩波文庫)

九月二十日

 忘恩は耐えがたいものである。しかし、これは自分の方がまだしも、実際的にも精神的にも優越的立場にあることを示すものだ。だから、忘恩者には忍耐をもってのぞみ、また感謝することを知っている人をそれだけ尊重するのが正しいであろう。だれにも忘恩を非難してはならない。相手が善い人ならば忘恩をみずから批難するであろうし、悪人に対してはそういう批難はなんの感銘をも与えない。それどころか、そういう批難を聞くと、悪人は相手が感謝を期待して、つまりいわば前貸し式に、おおくの称賛と報酬を予期して親切をほどこしたことを白状でもしたように、むしろ心の重荷をおろすであろう。悪人の目から見れば、ただ相手は投機に失敗しただけで、自分の方が利口にふるまったのだ、ということになる。

ヒルティ著 草間平作・大和邦太郎訳『眠られぬ夜のために』第一部 岩波文庫