蜀犬 日に吠ゆ

1901-09-27

[][]九月二十七日 あらゆる被造物との交わりにおける唯一つの正しい原則は はてなブックマーク - 九月二十七日 あらゆる被造物との交わりにおける唯一つの正しい原則は - 蜀犬 日に吠ゆ

眠られぬ夜のために〈第1部〉 (岩波文庫)

眠られぬ夜のために〈第1部〉 (岩波文庫)

 人間との交わり、いや、さらにひろげて、神のあらゆる被造物との交わりにおける唯一つの正しい原則は、なにものをも不必要に苦しめず、すべてのものに同情を寄せ、すべての人に平安と生きるよろこびを与えること、しかも、だれもが自分の務めを果し、単に享楽のために生きるな、と要求することである。この原則から、自由への自然権に対して教育と訓練の権利が、また未開のあるいは半未開の地域を征服する権利が、さらに人びとの利益のために行使される限りにおける貴族階級の権利や人間を統治する相対的な権利などが生じてくる。それ以外の支配はすべて専制政治であって、支配者をも被支配者をも腐敗させる。

 もう少し強力な、しかし善い政治と真の貴族階級――ただ貴族という名ばかりでなく、すべて気高い偉大なことに実行力を持って率先し、かつ手本を示すという本分を守る階級――そういうものが生じるならば、文明諸国民も、これに対して、これまで以上に好意をよせるにちがいない(現在でもすでにそうだが、さらに将来はきっともっと好意を示すことだろう)。というのはかれら諸国民は、とくに神を棄てて以来、いわゆる「統治の欠如」(士師記五の七)を感じているからである。ニーチェの誇張した言葉も、現在あるそうした気分の一つの表れにすぎない。

 しかし今やなにびとも現代の国民を動かして、悪い政治や思慮の浅い享楽好きの貴族を、その合法性や宗教的根拠にもとづいて大いに尊重させることは、もはや不可能である。そういう時代は永久に過ぎ去った。

ヒルティ著 草間平作・大和邦太郎訳『眠られぬ夜のために』第一部 岩波文庫