蜀犬 日に吠ゆ

1901-09-28

[][]九月二十八日 感じやすい性質の人びとに対しては はてなブックマーク - 九月二十八日 感じやすい性質の人びとに対しては - 蜀犬 日に吠ゆ

眠られぬ夜のために〈第1部〉 (岩波文庫)

眠られぬ夜のために〈第1部〉 (岩波文庫)

 全く気高い、そして同時に一般にいくらか感じやすい性質の人びとに対しては、彼らの宗教的または哲学的信念の、あるいはその道徳的生活のなんらかの欠点を、決してじかに批難してはならない。それが正当であるかどうかにかかわりなく、彼らはそれをあまりに強く感じるからである。

 むしろ彼らが多少とも危険な脇道にそれていることを、それとなく気づかせるようにつとめねばならない。それには、しばしば長い間沈黙をまもっているのが、一番よいことさえある。

 そうすれば、他人から言われるよりも、彼らみずから、はるかによく、正しく、しかも手痛く、自分に真実をいい聞かせるであろう。なおその上、きびしい試煉のときに周りの人たちが信頼にみちた忍耐と理解と思いやりとをもって彼らを取扱ってくれたことに感謝する。これに反して、人が彼らに対する信頼や尊敬をなくしてしまったと思うと、彼ら自らともするとそれらをすてかねない。そのために、口では言えないほどのひどい損失が生じる。多くの両親や教育者たちはこのことを十分に理解していない。そしてあとになって、一人の気高い生命の廃墟の前に暗然と立つことになるのである。そのように壊れたものは、建て直しができないことが多いし、もしできるとしても、前に必要であったよりもはるかに多くの忍耐と思いやりとをもってしなければならない。

ヒルティ著 草間平作・大和邦太郎訳『眠られぬ夜のために』第一部 岩波文庫