蜀犬 日に吠ゆ

1901-09-30

[][]九月三十日 大きな仕事の重荷を はてなブックマーク - 九月三十日 大きな仕事の重荷を - 蜀犬 日に吠ゆ

眠られぬ夜のために〈第1部〉 (岩波文庫)

眠られぬ夜のために〈第1部〉 (岩波文庫)

九月三十日

 大きな仕事の重荷をかかえた週日のあとで迎える日曜日がことのほか楽しいように、苦難のあとの幸福は最もさわやかで、危険も一番すくない。

 自己愛から根本的に放たれ、それが心にきざすたびごとに、すぐさま生身の悪魔のように憎むようになれば、すでに神の恩寵にあずかっていると確信してよい。なぜなら、そういうことはわれわれの内部における神のみわざであり、神の生ける臨在がなくては、決して起りえないからである。


  高き山よりの別れ

 さらば、みどりの山地よ、

 赤い花さく荒野よ、

 自由のたのしい夢は消え、

 はや秋が別れをうながす。


 みじかい夏はすぎ去った。

 牧者たちも谷へ降った。

 すべての高い嶺々はふたたび

 白い雪におおわれている。


 みどりの森よ、ありがとう。

 聖なる処にいることができた。

 私は森のきよらかな泉を汲んで、

 新しいいのちにみたされた。


 心もすこやかに空しい瑣事から解かれ、

 意志も自由になった。

 私の前途には約束の地と

 神の賜わる平安がある。


 たのしい休らいの時は終り、

 私は別人となって山をくだる。

 別れはつらい――しかし私は

 求めていたものをすでに見出した。

ヒルティ著 草間平作・大和邦太郎訳『眠られぬ夜のために』第一部 岩波文庫