蜀犬 日に吠ゆ

1901-10-26

[][]十月二十六日 苦しみ悩む者は はてなブックマーク - 十月二十六日 苦しみ悩む者は - 蜀犬 日に吠ゆ

眠られぬ夜のために〈第1部〉 (岩波文庫)

眠られぬ夜のために〈第1部〉 (岩波文庫)

 苦しみ悩む者は、自分で苦しんだことのない人たちに、決して信頼しない。もしわれらの主が十字架上で死なず、彼の生涯の初めの牧歌的な状態が、悲劇的な結末もなくあのままつづいていたら、キリストの一生は一つの「美しい物語」にとどまるであろう――そして貧しい者や悲しめる者の救い主には、もしあの頃そんな人がいたとすれば、おそらくパウロがなっていたであろう。したがって、「こうならねばならない」(マタイによる福音書二六の五四)というキリストの言葉は、たとえこの犠牲を神と関連させることなく、人間の本性とその考え方だけを考慮において全く人間的・心理的に解釈する場合でさえ、きわめて深い意味を持ったものであった。

 これは今でもそうである。本物の冠は、高位のものに到るまですべて、荊棘(いばら)の冠である。それ以外の冠は、選ばれた者自身にも、また、その人に支配され指導される者たちにも、よい効果を与えない。

ヒルティ著 草間平作・大和邦太郎訳『眠られぬ夜のために』第一部 岩波文庫