蜀犬 日に吠ゆ

1901-11-02

[][]十一月二日 いわゆる「永遠の眠り」についた人びとが はてなブックマーク - 十一月二日 いわゆる「永遠の眠り」についた人びとが - 蜀犬 日に吠ゆ

眠られぬ夜のために〈第1部〉 (岩波文庫)

眠られぬ夜のために〈第1部〉 (岩波文庫)

 ルカによる福音書一六の一九―三一。いわゆる「永遠の眠り」についた人びとが、この地上での生活についてはっきりした思い出をもち、また、この世の生活になにか影響を与えることがあるかどうかは、私の知るかぎりでは、聖書のどこにも明白に語られていない。上にあげたルカによる福音書の物語は、たしかに直接それを否定するものではない。しかし、いずれにせよ、この物語から受けとれること、また自然の論理からも考えられることは、ただ善くない者だけは無益にすごした地上生活を深い後悔をもって思い出すにちがいないということである。

 この世でたまたま同時代に生きたすべての人たちと(たとえ恩寵に浴した人びとの間でも)ふたたび出会い、しかも今度は永久にともに暮らすのだという考えは、決して特に心のはげみになるものではない。このことは、この地上での確かに理想的でない人間関係についての追憶が、あの世でも消えないということを前提にしている。しかし、おそれくわれわれは、むしろそのような関係はすっかり断ちきりたいし、事実、地上の死によって断ち切ったのである。忘れるということは、すでにこの地上での浄福の始まりである。もの忘れのレーテの川がなく、あらゆる苦しいことをいつまでも覚えていては、浄福などはありえないのである。

 ダンテ『神曲』煉獄篇第三一歌。

 しかしながら、そのようにこの世の明瞭な追憶があるかどうかは極めて不確かであるにもかかわらず、真に愛し合った故人といつまでも結ばれていると信じるのは、人情のまことにやみがたい願いである。また実際われわれは、彼らがなお地上のことを思い出し、われわれの身近にあるということを、はっきり感じるように思う瞬間がままあるものだ。

ヒルティ著 草間平作・大和邦太郎訳『眠られぬ夜のために』第一部 岩波文庫