蜀犬 日に吠ゆ

1901-11-17

[][]十一月十七日 いくどか人間軽蔑者になりそうな時期が はてなブックマーク - 十一月十七日 いくどか人間軽蔑者になりそうな時期が - 蜀犬 日に吠ゆ

眠られぬ夜のために〈第1部〉 (岩波文庫)

眠られぬ夜のために〈第1部〉 (岩波文庫)

 私は生涯にいくどか人間軽蔑者になりそうな時期があった。そうならずにすんだのは、たしかに人間社会の上層の人びとと知り合っていたためではなく、反対に、ささやかな人びとの生活や考え方を深く理解したおかげである。


 この世の小さなものに対する関心と特別の愛を持つようになると、現代の病気であるペシミズムに永久にかからなくなる。これに反して、高いものや、高貴なものや、うわべだけ目立つものに対する、たとえ秘かにであっても、何らかの憧れが心のなかに残っているかぎり(現代では教養ある、あるいは半ば教養ある階級では、ほとんど例外なくそうであるが)「この世の君」はいぜんとしてその人びとに対して権限を失ったわけではなく、彼らはゆるぎない幸福に達することができない。なお、言い添えておきたいのは、通常小さなものは、それに深く心をとめると、一般に大きなものよりはるかに興味ある、愛すべきものだということである。巣のなかで観察された蟻、勤勉な蜜蜂や、鷽(うそ)などは、ライオンや鷲や鯨などよりもずっと見ごたえがあり、興味深い動物である。また、小さな高山植物は、派手なチューリップやモダンな観葉植物よりもはるかに美しい。人間の場合もその通りである。この世の小さなものに眼を注ぎなさい。そうすれば、人生は一層豊かに、満足すべきものとなるのである。

ヒルティ著 草間平作・大和邦太郎訳『眠られぬ夜のために』第一部 岩波文庫