蜀犬 日に吠ゆ

1901-11-23

[][]十一月二十三日 心に深い傷を はてなブックマーク - 十一月二十三日 心に深い傷を - 蜀犬 日に吠ゆ

眠られぬ夜のために〈第1部〉 (岩波文庫)

眠られぬ夜のために〈第1部〉 (岩波文庫)

 もしあなたが心に深い傷をうけたように感じる時や、もはや自分の神経を支配できそうもない時には、そのような状態で人に会うことは避けたがよい。その痛みを人間にではなく、神に訴えなさい。そしてある程度落着きを取りもどしてから、人に会うようにしなさい。それができない間は、ちょうど動物が病気のとき本能的にそうするように、ひき籠っていなさい。ところが、現代の人たちは、そういう時にかぎって、他人のところに押しかけて行く。だが、相手はたいてい彼らを助けてやることができないものだ。

 われわれが比較的健康な者として、そのような意志のくじけた病人や、または神経のいらだった人と交わらねばならない時には、彼らを手きびしく非難したり、気を落着けるように訓戒したり、彼らの悩みをつまらぬものだと説きふせてそれを棄てさせようとしてはならない。そういうことはすべて、彼らを怒らせるだけだ。おだやかに彼らと交わり、気分をたかぶらせるものはすべてとり除き、休息と気晴らしが欠けていればそれを与えてやり、彼らの一時的な興奮した言葉にあまり重きをおかないこと。こういう態度が多くの場合、当座の最もよい策である。非常に善良な人びとは、自分が弱っている時でも、他人をぜひとも助けねばならないなら、それによって、かえって自分が助けられることがよくある。彼らはそれをきっかけに、実にたやすく立ちあがることができる。

ヒルティ著 草間平作・大和邦太郎訳『眠られぬ夜のために』第一部 岩波文庫