蜀犬 日に吠ゆ

1901-12-16

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眠られぬ夜のために〈第1部〉 (岩波文庫)

眠られぬ夜のために〈第1部〉 (岩波文庫)

十二月十六日

 人生は、その大部分が短い決定的な行動から成っている。そして、これらの行動のあと、ふたたび穏やかな生活の流れがかなり長い期間つづく。この間に、いろいろな経験を重ねて、生活の原理が獲得され、また確立される必要がある。そうすれば、行動にあたってとくに熟慮しなくても、その原理にしたがって本能的に実行することができる。行動するときになって、自分が何をなしうるか、また何をしたいのかを、考慮しなければならないようでは、たいてい初めから失敗するにきまっている。現代では軍事上でも認められているように、行動に移る決定的瞬間には、「心理的要素」がきわめて大きな役割を演じる。それまでに十分に獲得された力と原理をもって、勇敢に事にあたる者は、決定的な勝利をおさめることができる。そしてこの勝利が、その後長い期間にわたって、その人の運命を決定する。これに反して、あやふやな態度で戦いにのぞむ者は、降伏するか、退却するかであって、前に向かって進むかわりに、人生のこの時期とその課題とを全部、初めからやり直さねばならない。

 どんな決心も原理も信条も、それが行動において確固たるものとして確証されないうちは、うかつにそれを信じてはならない。また、まだ確立されない原理をもって、行動に対処しなければならぬような状況に身を置いてはいけない。これら二つの場合から生じる結果は痛ましい敗北であり、われわれはしばしばその苦しみをなめるが、それは他のどんなことにもまして善と偉大へ向う勇気を奪うことになる。

 こういうとき最も確かな助けとなるのは、神に対する堅固な信頼と、来るべき事柄について神から必ず与えられる警告や準備を聞く鋭い耳である。神に信頼する者は、その声をきく注意深さのほかは、どんな人間的な利口さをも欠いてよいくらいである。何か重大なことが起る時には、つねに神から予告され、あらかじめ慰めと約束とによって十分に力づけられ、行動のさなかにも、その人自身では出しえないほどの勇気を授けられる。ヨブ記とキリスト受難史とは、この上なく雄弁なその実例である。

 ヨブ記三三の一四―三〇。

ヒルティ著 草間平作・大和邦太郎訳『眠られぬ夜のために』第一部 岩波文庫