蜀犬 日に吠ゆ

1901-12-30

[][]十二月三十日 神が何であるかが言えないように はてなブックマーク - 十二月三十日 神が何であるかが言えないように - 蜀犬 日に吠ゆ

眠られぬ夜のために〈第1部〉 (岩波文庫)

眠られぬ夜のために〈第1部〉 (岩波文庫)

十二月三十日

 「神が何であるかが言えないように、神の中に自己を没し去ることによって経験するすべてのことも、言い表わしがたいものである。」バイヨンのエリザベトのこの言葉は、「神秘主義」とか「内的生活」とかが本当は何であるかを、最もよくいい表わしている。この事柄そのものを記述することは不可能であり、またたとえそれを記述できたとしても、そのような記述などを必要としない人にしか、それは分らないであろう。われわれはただ、このような魂の状態の個々の結果を一般的に明らかにするという試みしかできない。それさえも、つねに、錯覚だとか空想だとかいう疑いを受けることになるだろう。

 しかしながら、へいぜい分別もあり世間の経験にも富んだ人であれば、その生涯の幸福を空想の上におくことは容易にするものではない。むしろ反対に、そのような世間の経験こそ、かえって世俗の人たちの幸福がどんなに空想的な、そうでなくてもまったく不安定な基礎の上に立つかを、日ごとに教えてくれる。だから、彼ら世俗の人こそおそらく真の夢想家であって、神秘家がそうなのではない。

 しかし、われわれは次のことをも十分な確信をもって言うことができよう。すなわち、神の言葉にきき従い、神のみ心をたえず、まじめに、忠実に遂行すること、ただこの道のみが、およそ人間が到りうる完成へと導くものであり、これ以外のいかなる道でもないということである。他の種類の神秘主義はすべてはなはだしい誤りであり、また、それが非常に素朴で善意のものでなければ、やはり魂をもひどく損うことになる。

ヒルティ著 草間平作・大和邦太郎訳『眠られぬ夜のために』第一部 岩波文庫