蜀犬 日に吠ゆ

1919-02-20

[][]二月二十日 あなたがたの柔和を はてなブックマーク - 二月二十日 あなたがたの柔和を - 蜀犬 日に吠ゆ

眠られぬ夜のために〈第2部〉 (岩波文庫)

眠られぬ夜のために〈第2部〉 (岩波文庫)

 「あなたがたの柔和を、みんなの人に示しなさい*1。」これは、多くの試練を経て、最後に浄化され気高くされたキリスト教会の大使徒パウロが、その弟子たちに与えた特別に美しい言葉である。われわれは、他人に親切をつくすどんな機会をものがすまいと、生涯に一度は、固く決心しなければならない。たとえそれがただ一つのやさしい言葉や眼差しであっても。わたしたちは親切と金銭とを同一視することにあまりにも慣れすぎている。

 このことと、決して心に怒りを発すまいという、その反対の決意とは、いささかちがったものである。こういう決意は全く無益である。そうするためには、人間の怒りやすい天性が根本からすっかり変化しなければならない。しかしそれは、ただ神の恩寵のみが人の心のなかで成就しうることである。また、怒りの一種、つまり悪に対する嫌悪と手きびしい抗議――たとえば商人と神の宮を汚す者とに対する聖殿のイエスを見よ(マタイによる福音書二一の一二・一三)――、こういう怒りは、どんなときにも決して失ってはならない。ただ善い決意とか善い生活規則を守ってさえいれば、いつかあなた自身もこのような境地に達しうるだろう、などと信じてはならない。

ヒルティ著 草間平作・大和邦太郎訳『眠られぬ夜のために』第二部 岩波文庫

*1:ピリピ人への手紙四の五。ドイツ訳聖書では、邦訳聖書のように「寛容」でなくて「柔和 リンディヒカイト」となっている。そこでヒルティはさらにそれを「親切」と言いかえたのであろう。(訳者注)