蜀犬 日に吠ゆ

1919-03-19

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眠られぬ夜のために〈第2部〉 (岩波文庫)

眠られぬ夜のために〈第2部〉 (岩波文庫)

 せいぜい中くらいの人生目的よりももっと高いものを追求し、しかもよくそれを達成する人がどんなに少ないかということは、まことに驚くべきことだ。一般の人が目的とするのは、家庭を築くこと、高度な生活の楽しみ、たかだか例えば職業上か政治上の成功、人なみ以上の社会的地位、などである。けれども、これらはほとんど永続的な利益を残さないものである。

 われわれはそのように教育されてきたし、教会からも学校からもはるかにそれ以上に高尚な、力づよい励ましを受けなかった、とも言えるだろう。けれども、人間はそれらのものだけで十分に満足させられるようには、作られていないのである。もし世の伝記類が、とくに、書かれている人の晩年について、もっと真実を伝えているなら、こうした事実がきわめてあからさまに認められるだろう。ところが、たいていの伝記はただ誤った興味を与えるだけだから、推薦することができない。初めからなにがなんでも讃美しようという考えから出発していない、真にすぐれた伝記がいつか世に出ることが、せつに望まれる。

 老年になると、これまで人間の努力の目標のうちの大きかったものがだんだん小さく思われ、以前は見のがしがちだったものがしだいに大きく思われてくる。神のものの見方もおそらくそうであろう。もしわれわれが、正しく進歩しながら年をとって行くならば、しだいに神のものの見方に近づくであろう。

ヒルティ著 草間平作・大和邦太郎訳『眠られぬ夜のために』第二部 岩波文庫