蜀犬 日に吠ゆ

1919-03-24

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眠られぬ夜のために〈第2部〉 (岩波文庫)

眠られぬ夜のために〈第2部〉 (岩波文庫)

 「高ぶった思いをいだかず、かえって低い者たちと交わるがよい」(ローマ人への手紙一二の一六)。しかし、このきわめて真実な言葉も、なおいくらかの説明と補足が必要である。申し分なく正しい人にとっては、崇高かつ偉大なものはひとり神あるのみで、そのほかにはない。なお比較的に偉大だと思われるものがあるとすれば、それは慈愛の心によって真に浄化された人であるが、そういう人はごく少ない。だから、われらの主も、ルカによる福音書一六の一五において、「人びとの間で尊ばれるものは、神のまえでは忌みきらわれる」と言っていられる。この言葉は最初のうち、どうしてもいくぶん苛酷に聞えるであろう。現代の説教師たちも、ただごくまれにしかこの言葉を引用しない。主自身はその時代の貴人や金持のところでも、総督や王の前でも、いたるところでつねに、この言葉どおり、驚くほどの機転(タクト)をもって振舞われた(こんな機転などという言葉を主に用いてよいとすれば)。実際、このような機転は、現代の最もすぐれた牧師でさえも、富豪やごく身分の高い人を相手とする場合に、必ずしもつねに持ち合わせているわけではない。にせの高貴とは対立し、小さなものを愛し、必要ならいつも、尊大ぶった者には落ち着いて礼を失わずに対抗する、このような真の「高貴」を身につけることは、まさに人生の最もむずかしい課題の一つである。まことの人間的偉大に到達するためには、多くの謙遜と、同時にまた、自己の高い任務や使命に対する同じように多くの、固い、ゆるぎない信念とが必要である。詩篇一八の三五*1

ヒルティ著 草間平作・大和邦太郎訳『眠られぬ夜のために』第二部 岩波文庫

*1:「あなたはその救いの盾をわたしに与え、あなたの右の手はわたしをささえ、あなたの助けはわたしを大いなる者とされました。」