蜀犬 日に吠ゆ

1919-03-28

[][]三月二十八日 あなたは、最後にいたるまで試煉に はてなブックマーク - 三月二十八日 あなたは、最後にいたるまで試煉に - 蜀犬 日に吠ゆ

眠られぬ夜のために〈第2部〉 (岩波文庫)

眠られぬ夜のために〈第2部〉 (岩波文庫)

三月二十八日

 あなたは、最後にいたるまで試煉にさらされているだろう。これは、ある時は、外部から、あなたに反対する、あるいは敵意をもつ人びとを通してなされるが、またある時は、内部から生じたりする。というのは、あなたの内部には、なおいくらか余命をたもつ昔ながらの残滓(ざんさい)が残っているからだ。このような障害をすこしも伴わないような、永続的な地上の楽園などはありえない。しかしながら、それでもなお、あらゆる敵対物にうち勝つ心の平安だの、また、暗澹とした時期にもふたたび光明が輝くまで毅然として己れをたもつ力だの、少なくとも、この闇の中で厭世的な、もしくは世界苦的な気分に身をゆだねたり、そればかりか、なんらかの仕方で妥協してその闇の側に参加したりするのを防ぐだけの力だの、そういうものは、たしかにありうるのだ。この心の平安とこの力とは、避けがたい苦難にあって、わたしたちの慰めである。あなたもそれを求めさえすれば、必ず与えられるであろう。かようなものは地上では見出しがたく、だからその意味で世界は涙の谷だというが、それは決して真実ではない。このことをふたたび多くの人に覚らせることが、いまや大いに肝要である。なぜなら、いわゆる「教養ある社会」は、ほとんどただ「生の楽しみをつくす」ことか、ペシミズムしか知らず、おまけに、時にはその両方を一緒に、または交互に、経験しているという有様だからである。

ヒルティ著 草間平作・大和邦太郎訳『眠られぬ夜のために』第二部 岩波文庫