蜀犬 日に吠ゆ

1919-05-06

[][]五月六日 現代の最悪な現象の一つは はてなブックマーク - 五月六日 現代の最悪な現象の一つは - 蜀犬 日に吠ゆ

眠られぬ夜のために〈第2部〉 (岩波文庫)

眠られぬ夜のために〈第2部〉 (岩波文庫)

 現代の最悪な現象の一つは、すべての文明国において下層の階級の大衆がキリスト教から、またおよそ宗教的なものから全く離れ去り、ひたすら社会主義の未来国家に彼らの状況の改善を期待していることである。この点で彼らがやがて失望するであろうことは、彼らにとってもう一つの不幸である。だが、この不幸は、なんらかの改善が始まる前に、まず個々の国において起るにちがいない。まさにキリスト教こそ、貧しい者、虐げられた者のための、およそ世にあるかぎり最上の世界観をふくんでいること――これを個々の人に理解させるのが、今や教会や学校の任務であろう。ところがこれまで、両者ともこの任務をただ不十分にしか満たしていない。ただ救世軍だけが、実践的にこの事に励んできたが、教会もふたたび大衆を獲得しようとすれば、この実例にならなわねばなるまい。単に日曜日の説教や宗教授業や堅信式の指導だけで、なすべきことがすんだとはいえない。だから、われわれの教会にある改革を行って、一層活気ある社会的施設に変ずることを怠ってはならない。これに反して、聖職者たちが普通の社会主義に心を寄せるのは、大きな誤りである。なぜなら、社会主義は徹頭徹尾無神論であり、従って祝福と繁栄を伴わないからである。ところがキリスト教は、外部からなにか添加しなくてもすでに十二分に社会的なものをふくんでいる。だから、あなたは「キリスト教的にして社会的」と自称するものや、あるいは一般にキリスト教と今日の社会主義との結合を目ざすものを、一切信じてはならない。そういうものからは、よいものはなにも生じない。ただ真のキリスト教を活気づけることによってのみ、意義ある事が達成されるのである。

ヒルティ著 草間平作・大和邦太郎訳『眠られぬ夜のために』第二部 岩波文庫