蜀犬 日に吠ゆ

1919-05-13

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眠られぬ夜のために〈第2部〉 (岩波文庫)

眠られぬ夜のために〈第2部〉 (岩波文庫)

 数ある書物の中で聖書にまさるものを、あなたは見出さないだろう。なにかよい本を探し求めるというこの段階を、あなたは省いてもよいのである。だが、キリストの言葉をどのような仕方で読むか、すなわち、そのような人生観や世界観に対する愛好心をもって読むか、あるいは歴史的もしくは哲学的批判をもって読むか、あるいは機械的に規則正しいやり方でか、それとも深い反省もなくただ言葉のうわべだけを追うのか、その読み方しだいでキリストの言葉はあなたに全く違ったものに見えてくるだろう。それらの言葉は、まさに彼自身が語ったように、全く「霊でありまた命である」(ヨハネによる福音書六の六三)。こう言ったからといって、あなたがそのほかのものを読んではならないというのではない。それどころか、あなたが教養ある人になりたければ、むしろ読まねばならない。しかし、あなたをキリストの言葉から他にそらすものは、正しいものとはいえない。あなたは、それらをただ教養のための材料として用いることができるにすぎない。

 宗教的内容をもつ実にたくさんの書物(その中に教父たちやスコラ学者のものも含めて)については、次のように言ってよい、これらの書物は真の意味で「信仰を高める」ようにはたらくよりも、むしろはるかに精神に重荷を負わせ、昏迷にみちびくように作用する、と。あなたが神学の研究をするのでなければ、それらをことごとく読んでしまう必要はない。それぞれの種類からその見本を一冊でも読めばたくさんであろう。

 私自身は、それらの多くの本で、ずいぶん苦労をした。もしも私が、たやすく他人の説に感服させられないだけの良識を持ち合わせていなかったら、精神的危険にみちたこのジャングルを、無事に通り抜けられなかったであろう。

ヒルティ著 草間平作・大和邦太郎訳『眠られぬ夜のために』第二部 岩波文庫