蜀犬 日に吠ゆ

1919-05-30

[][]五月三十日 現代の世間人たち はてなブックマーク - 五月三十日 現代の世間人たち - 蜀犬 日に吠ゆ

眠られぬ夜のために〈第2部〉 (岩波文庫)

眠られぬ夜のために〈第2部〉 (岩波文庫)

五月三十日

 現代の世間人たちの表情や態度全体がありありとこう語っている、「私は、私自身をのぞいて、周りのあらゆるものを軽蔑する。なにしろ私はそいつらとはまるっきり無関係なんだから。」その表情や態度にそれが表れていない時でも、ひどい心の不安定や、ひとになにか印象づけたいという願いがひそかに隠されているものだ。もっとも、そういう気持はたいていすでにうわべのおしゃれとなって現れているのだが。

 われわれは、われわれの子供たちをこのような流儀に近づけさせず、もう一度、より人間らしい態度に慣れさせるように、全力をつくさなければならない。しかしここしばらくは、金持ち連が自信たっぷりにこのよくない傾向の音頭を取るにちがいない。彼らはほとんど残らず、いくぶん粗野な、上から人を見おろすような眼ざしを持っている。それに、いかんあがら学者たちまでが彼らをまねて、しきりにそんな態度をとり、そこで「お上品」というのが彼らの口癖になっている。このような気風を要請する処は、立派な館邸のほか、現代の保養地であって、そこでは人びとは大勢の、さまざまな人と、内心は冷淡に、それどころか不親切にさえ、交際しており、その土地の元からの住民にはまるで目もくれないのが普通である。それだから保養地は、とりわけ子供たちのためによくない滞在地である。

ヒルティ著 草間平作・大和邦太郎訳『眠られぬ夜のために』第二部 岩波文庫