蜀犬 日に吠ゆ

1919-06-10

[][]六月十日 善についての人間の はてなブックマーク - 六月十日 善についての人間の - 蜀犬 日に吠ゆ

眠られぬ夜のために〈第2部〉 (岩波文庫)

眠られぬ夜のために〈第2部〉 (岩波文庫)

 善についての人間の内的進歩のそれぞれの段階は、決して他の段階と全く同一ではない。だから、一つのキリスト教団やさらに全教会を、一人の牧者を先頭にしたみな一様な羊の群れのように想像する人たちは、まちがっている。これは、福音書に出てくるこの種の比喩(たとえ)から、ほとんどあまりにも極端に、教会的観念に移し入れられたものにすぎない。それどころか、すべての一人ひとりの魂は、全く独自の精神的存在であり、その魂が満たされるには、実際上でもまたそのような存在として取扱われることを要求する。画一主義からは無気力や偽善さえもが生じがちである。また、いかんながら、現代の文明諸国民の中に根をおろしている深い教会への嫌悪も、やはりそこから生じている。このことは、教会のなんらかの正しい改革の思想を求めながら、まだそれを見出せないでいる真理感情の、一つの反撥なのである。そういう正しい思想は、かなり長い時を経て、「死人が死人を葬り」(マタイによる福音書八の二二)終わったのちに初めて現われてくるだろう。実際、このことは今日すでに始まっている。

ヒルティ著 草間平作・大和邦太郎訳『眠られぬ夜のために』第二部 岩波文庫